無信号横断歩道での安全に関する基礎研究~歩行者保護に資するソフト施策の視点から~
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-14- 4 交通安全啓発における視点 4-1 社会心理学の視点 利他的行動とは、元来、進化生物学、動物行動学、生態学などで用いられ、「ヒトを含む動物が他の個体などに対しておこなう、自己の損失を 顧みずに他者の利益を図るような行動」である。人間の社会的行動を研究対象とする社会心理学においても取り扱われ、募金などの寄付行為が利他的行動であると言える。都市交通研究にあてはめてみると、交通ルールを遵守した運転をするという行動は、利他的行動としての側面を持っていると考えられる。 利他的行動の規範は、命令的規範と記述的規範に分けて捉えることができる6), 7)。前者は多くの人が「こうあるべき」「望ましい」と考えているだろうと知覚される規範であり、後者は実際に周囲の多数の人たちが取っている行動が適切な行動の基準であると知覚される規範である。横断歩道での停止ルールにあてはめると「歩行者がいたら停止しなければならない」が命令的規範であり、「停止するクルマは少ないから止まらなくてもよい」が記述的規範であると言える。 ここで「横断歩道で歩行者を見たら停止すること」という交通ルールは、他の交通ルール(例えば、信号無視や最高速度超過)と比べて命令的規範としての「強度」が弱いのかもしれないと考えた。その仮説が正しければ、重要な交通ルールであることを知らしめるような啓発施策が肝要となる。 一方、ある程度の「強度」があるとするのなら、人に「見られている」状況が行動に影響するかもしれない。すなわち、道徳的な心理からの罪悪感により、正しい「命令的規範」によるルール遵守行動をとると考えられる。 また、「停止しているクルマが多くなれば」上記の記述的規範が弱まり(あるいは、記述的規範が変化し)、自分もルールを遵守した運転行動をとるようになり、さらに多くのドライバーがそのような運転行動をするのではないか。 4-2 マーケティング学の視点 マーケティング学で論じられる社会的相互作用であるバンドワゴン効果8) , 9)、すなわち「ある選択が多数に受け入れられている、または、流行しているという情報が流れることで、その選択への支持が一層強くなるという効果」は、交通安全ルールを遵守させる啓発施策にあてはまるのではないかと考えた。逆に、大勢が求める物を持つことを嫌う(ある対象の需要が世間で高まるほど、個々人の需要が縮小していく)効果を、スノッブ効果と呼ぶ。

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