平成18年度 研究成果報告会開催記録
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--17 それを日本版ブキャナン・レポートとして、全市的に展開させていきたい。今、一番重要なのは、交通事故、交通安全対策です。部屋をきちんと分けて、そこでは速度を落とすようにきちんと決める。それから、道路の区別をする。速度マネジメントという言い方をしていますが、市街地の幹線道路は40キロなら40キロ、部屋の中はそれより低い速度というようにそれを道路の機能別体系に相応しい規制速度とし守らせる仕組みづくり。ITS技術を使うのか、交通規制だけでやるのか、物理的なものを使うのか、それらをどう組み合わせるのか。これが1つ大きなテーマです。 NHKの「難問解決! ご近所の底力」にも出演された埼玉大学の久保田先生は、ドクター論文でこのことを取り上げていらっしゃいます。実は、先生は私どもの研究所にも深くかかわっていただいていまして、研究企画委員をお願いしていますし、私どもの最初の本『新しい交通まちづくりの思想』も一緒に書いています。そのときのテーマもまさに交通静穏化で、社会実験を通した取り組みを紹介しています。それから既に10年近くたっています。ITSを使った新しい静穏化が私の大きな研究テーマではないかと思っています。 われわれは忘れていましたが、ブキャナンはコストをかければ両者を高くできるという第二原理も出しています。第一原理は環境をよくするためには車の利便性を我慢しないといけないということだったんですが、実は、インフラをきちんと整備すれば、両方を高くすることができますよというのが、ブキャナンのもう1つの原理です。きちんとした環境整備といいますか、きちんとした道路をつくって、きちんとした駐車場をつくってアクセス道路を確保していけば、居住環境を高くしながら車の利便性も高めることができるし、さらに、車だけではなくて、高齢者や障害者、子どもを含めたすべての人たちのアクセシビリティを高くできますよと。こういうことをイギリスのいろいろな地区のモデル的な分析によって出しているわけです。これまで、私たちは、お金がないとか、インフラ整備が難しいということで、第二原理についてはあまり考えずに、とにかく現在ある道路の中でなんとかしようとばかりしてきました。 最近、ヨーロッパ等へ交通まちづくりの実態を見に行く機会がありましたが、非常に小さい都市、豊田市よりももっと小さい都市でもすごく立派な交通インフラをつくっています。ライトレール(LRT)、新型の路面電車が入って、地下の駐車場がある。それから、都心部の主要なところは地下道で通過交通を抜いているとか、バイパスをつくっている。きちんとしたインフラ整備をある時期にやっています。その結果、都心部の歩行者地区ににぎわいがあり、そこへは車で行きやすいとういう状況が生み出されています。やはりある種の大規模な革新をある時代にやっておくべきだということです。そういうインフラがないと、快適性と車の利便性、あるいはアクセシビリティに制約ができてしまいます。 少し話が飛びますが、車のないまちに多少関心があって、先週ベニスを見てきました。アクセシビリティの点ではとんでもないまちです。確かに車は全然なく、車からは安全で、車の音がしません。車の代わりの移動手段は船です。水上バスがあります。水上タクシーがあります。それから、水上の自家用車のようなものもあります。ただ、当然ですが、一軒一軒の家の前まで運河があるわけではありません。大邸宅であれば自家用のマイボートを直行させられるのかもしれませんが。昔のホテルは少し引っ込んだところにあります。船着き場からホテルへ行くのに、スーツケースを持って100メートル、200メートル。これが大変です。平地だったらいいんですが、運河をまたぐ階段、橋を越えていかないといけません。旅行者は大変です。もっと見てみますと、毎日の日常生活、物流。荷物を運ぶとき、ゴミ通路を出すとき。通路が狭いですから変なところへためておけないし、あるところまで持っていかないといけない。高齢者は住めないまちだと思いました。 結果として、やはりアクセシビリティという点で、誰でも手軽に移動できる交通手段が必要だという

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