平成18年度 研究成果報告会開催記録
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--16うまく使った新しい車社会、二重の意味で車をうまく使う社会が目指すべき方向であろうということです。都市交通のあり方はもちろん、車を使った住まい方や車を使った都市づくりの仕方を提案していくことが基本的な課題ではないかと思います。 そこに「都市における“車”との共生のあり方を探る」という言い方にしていますが、今よりもハイレベルで品質の高い共生の仕方、今の問題をなくすような共生の仕方を探っていく。“車”はより新しい環境にいい車、あるいは、高齢者の皆さんにやさしい車を意味していますので、もちろん車も進化させてほしい。その進化した車を使いこなしていく住まい方、都市をイメージしています。現在の自動車をそのまま肯定して、それと共生するという意味ではありません。それを越えたところに世界に示すモデルがあるだろうと思っています。 少し専門的に「21世紀の日本版ブキャナン・レポートづくり」という言い方をしています。ブキャナン・レポートは1963年にイギリスで出された都市交通計画の報告書です。1960年代、イギリスで自動車がものすごく増えたために、交通事故が増え、広場や、空いている公共空間がみんな駐車で埋まってしまった。汚い煙が出る。騒音がある。それから、車の往来が激しくて道路の反対側に渡れないために、地域分断が起こる。このように大きな社会問題を生みました。それに対して、都市の中で自動車をどういうふうに使っていったらいいのか、どういう道路づくりをしたらいいのか、そういうことを研究した古典的な本です。これはその後の都市における自動車交通への対応、都市計画、道路づくりのベースとなって、世界でいろいろな試みがなされています。その40年後である現在、日本型車社会の都市のあり方、生活の仕方を提案し、日本版の方向性を示すことが1つの目標になるのではないかというのが個人的な見解です。 ブキャナン・レポートを読み直すと大変面白いことを言っています。ブキャナンは第一原理として、居住環境とアクセシビリティは対立すると言っています。つまり、居住環境をよくしようと思えば、車を使った利便性を少し抑えないといけないし、車の利便性をできるだけ享受したい、車の利便性を最大限生かすとすると、居住環境のほうは少し我慢しなければいけないということです。 その考えをベースに、都市の中で環境を守るべき部屋と廊下をきちんと区別しようというのが彼の結論の1つです。都市の部屋というのは居住環境地区と呼ばれるもので、今でいう安心歩行エリアや交通静穏化地区ですが、1つの住宅地、あるいは、中心市街地のまとまりでは車の速度を落としたり、通過交通をやめるなど、車に遠慮していただき、居住環境、生活環境を優先させます。一方、車があちこち動き回る場所が廊下です。都市の廊下は、幹線道路から補助幹線まできちんと体系化する。そして、都市の部屋、つまり住宅地ですが、そこへ行くには、廊下にある決まった数カ所のドアから入る。そして、中では、人の邪魔にならないように通って、自分の席に着いていただく。彼は病院を例に説明していますが、そういう形です。 つまり、都市の部屋と都市の廊下をきちんと区別しよう。幹線道路と補助幹線を区別して、部屋の中の道路、通路には通過交通は入ってきてくれるな。入ってきた車は静かにゆっくりと動いてくれ。今から考えると極めて常識的なことですが、これを都市に適用することを提案したわけです。 これが現在の交通静穏化という考え方につながり、いわゆるコミュニティ道路などが設置されているわけです。しかし、実際にそういうのが出現したところは日本でも少ししかありません。考え方としては非常に取り入れられていますが、実際の適用はどうしても限定されています。
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