3 れる運転技能検査に比べて,実車指導の位置づけはやや寛容であるといえる.したがって,運転技能を確認し,適切な指導を与えるという役割をもつならば,実車指導を補い,代替する手段になり得るだろう. 実車指導は運転の観察を通して,運転技能を確認するが,近年自家用車にドライブレコーダを設置するドライバーは増加しており,そこには日々の運転の記録が蓄積されている.さらにこのような運転モニタリングデータを用いた運転診断システムをさまざまな企業が開発しており,個々のドライバーの運転傾向を把握する仕組みを確立しようとしている.しかし,高齢者講習では運転適性検査や認知機能検査等の運転に関わる能力も併せて取得していることを考えると,ドライブレコーダから得られる運転挙動のみで運転傾向を把握する運転診断システムは,実車指導とは異なる立場にあるといえよう.すなわち,実車指導を補う代替手法には,運転挙動に加えて,運転適性 (fitness to drive) を加味して運転傾向を把握する要素が必要であると考えられる. ところで,安全運転について言及する際に,集団または個人の交通事故件数を指標として使用することがある.しかし,交通統計ほどの大きな母集団でデータを整理しない限り,たとえドライブレコーダで長期間データを記録しても,交通事故が観測されることはまれである.そのため,交通事故という損害が生じる前段階のヒヤリハットやインシデントなどの危害を引き起こす可能性のある事例,つまり危険事象が個人の安全運転の指標として適当であると考えられる.たとえば,急減速事例 (Rapid Deceleration events: RDE) は,Near-crash eventsのようなSafety-Critical Eventsの範疇に含まれ,主にブレーキ操作により急激な加速度変化が生じた事例を指す.事例の検出に関わる加速度の閾値の設定にも依存するが,交通事故とは異なり,ほとんどのドライバーで観測される.さらに,高齢ドライバーのRDEは,発生件数と運転に関する機能変化との間に関連性があることから,交通事故の代替指標になり得るといわれている2)3).そこで本研究では,RDEを高齢ドライバーの運転傾向の把握にとって有用な危険事象の指標と考え,その発生可能性の推定を試みることによって,高齢ドライバーの運転傾向の把握や運転評価に関する知見を得ることとした. 1-2.研究目的 本研究は,高齢ドライバーの交通事故低減を目指して,RDEを危険事象の指標と考え,その発生可能性の推定を通して高齢ドライバーの運転傾向の把握や運転評価につながる知見を得ることを目的として行った.今年度は,回帰分析によるRDEの発生件数の推定と,構造解析によるRDEの発生に関する要因間の関係性の整理を試みた. また,これらの解析に使用するデータの精査を通して,運転モニタリングデー
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