高齢ドライバーの人間特性と運転行動を考慮した危険事象の推定
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(2)RDEの発生有無を推論する質的分析 17 た結果であると考えられる.LMBは,同じ年齢でも年間走行距離の短いドライバーは,年間走行距離の長いドライバーよりも交通事故が多いという現象を示す用語である.LMBが提唱されたことにより,交通事故リスクは年齢だけでは規定されないことが明らかとなり,さまざまな要因を考慮することの重要性が述べられた.たとえば,LMBの背景要因として挙げられている心身の機能低下や市街地と郊外といった交通環境の違いなど,年間走行距離が短くなる要因を考慮すべきであることが指摘されている.本研究においても,複数の要因の関与が示された一方,年齢はWald検定において有意ではあったものの,偏回帰係数は他の変数に比べて小さいことからRDEへの影響力は他の変数に比べて小さいことが予想され,年齢はあくまでも危険事象発生の一要因であることが示唆された. さらに,走行距離グループ高群についてMMSEの成績 (認知機能成績) を操作して予測値を算出した.その結果,MMSEの得点が高いとRDE件数が少ないという認知機能レベルによるRDEの予測値の違いが示された.ここでは走行距離とMMSE成績のみを操作したが,同様に視覚機能や交通環境を変化させてRDE件数を予測することもできる.この方法を応用すれば,たとえば,個人のプロフィールを入力値とした同年代や同地域の典型的なドライバーとの比較や,同一個人内での機能変化や交通環境の変化がRDEに及ぼす影響についての示唆が得られるだろう.また,交差点数や気温変動などは政府統計で参照できる情報であるため,本モデルの認知機能や視覚機能成績を運転適性検査や認知機能の検査の結果に置き換えることができれば,新たにデータを取得しなくとも現行の情報でRDEを推定できると考えらえるため,今後はこのような応用可能性を考えることが求められよう. 構造解析により,RDEに関わる要因を機能と意識や態度の位置関係の解明という観点から検討した.その結果,RDEに対して機能と意識や態度はそれぞれ独立に関連するという並列構造が,階層構造に比べて性能の高いモデルであるという結果が得られた.このモデルは,高齢者の安全運転と交通事故リスクに関する文献調査を通して提案されたAnsteyら8)の理論的モデル (図3-5) を支持する結果であると考えられる.彼らは,上位概念に運転行動,それに直結する要因として「セルフモニタリングと運転能力に関する信念」と「安全運転のための能力」を配置した.本研究のRDEを速度管理という運転行動の一種と考え,「セルフモニタリングと運転能力に関する信念」を本研究の意識や態度,「安全運転のための能力」を本研究の機能に置き換えると,それぞれ同じ位置関係にあると考えられる.これは,高齢ドライバーのRDEが,運転行動と類似のモデルによって説明できる可能性を示唆する結果である.

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