これからの「生活道路」空間マネジメントに関する研究
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2.生活道路空間の整備に関する既往研究の整理 2-1.はじめに 近年,我が国の交通事故発生件数は減少傾向にあるものの,幹線道路と比較すると,狭幅員である生活道路における減少率は小さい.2021年の第11次交通安全基本計画においても「生活道路の安全確保」が対策の視点として挙げられており,生活道路における交通安全対策が重要視されている. 生活道路におけるこれまでの交通安全対策としては,1970年代にオランダで生まれたボンエルフ「(生活の庭)の意」を始めとして,幹線道路に囲まれた住宅地区等の地域全体の交通安全を図る面的な交通安全対策(ゾーン対策)の導入が進んだ.1980年代には走行速度を30km/h以下に抑えることを目標とした面的な速度抑制対策であるゾーン30が欧州を中心に推し進められた1). 我が国においても,これまでスクール・ゾーン(1972年),生活ゾーン(1974年),シルバー・ゾーン(1988年),コミュニティ・ゾーン(1996年),あんしん歩行エリア(2003年,2008年)による各種ゾーン対策が進められてきた.これらの対策は全国的な普及に至らず,2011年から柔軟な設定が可能なゾーン30の整備が始まった.その後も生活道路対策エリア(2016年),キッズゾーン(2019年)によるゾーン対策が行われてきた. コミュニティ・ゾーン以降のゾーン対策の特徴は,速度規制や一方通行規制等に加えて,ハンプや狭さくといった物理的デバイスの設置を推進している点が挙げられる.しかし,実際の物理的デバイスの設置状況は,予算的制約や地域住民の反対意見等もあり,十分とは言えない状況であった. このような中,警察庁と国土交通省は,最高速度30km/hの区域規制と物理的デバイスとの適切な組合せにより交通安全の向上を図ろうとする区域を「ゾーン30プラス」として設定する方針を打ち出した2).これにより生活道路における人優先の安全・安心な通行空間の整備の更なる推進を図ることが示された. ゾーン30プラスは,以前より十分な導入が進まなかった物理的デバイスの設置を規定しているため,より一層事業の関係機関(住民,道路管理者,交通管理者等)の連携を図ることが重要となる.そのため,関係機関の対策導入に対する意識を把握し,これまでのゾーン対策に関する効果や導入課題,導入プロセス等を整理することは,効果的かつ円滑な対策導入推進の一助となると考える. よって,本章では我が国の代表的な生活道路空間の整備であるゾーン30を中心としたこれまでの生活道路空間整備―特にゾーン対策―に関する既往研究を収集し,対策整備時における課題を整理する. 3

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