これからの「生活道路」空間マネジメントに関する研究
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9 に対する支払意思額から事業の整備地区と未整備地区との格差から発生する公平性を検討している.結果,直接的な利用効果をあまり得られない市民は支払意思額が相対的に低いが,事業を行うことに対しては賛成の意向があることが示されている.久保田ら41)は,海外の地区交通対策導入事例を通して,我が国のコミュニティ・ゾーン形成事業導入の論点を社会的公平性の観点から検討している.結果,地区道路レベルの交通対策は,地区外からの車両の流入に制限を加えるなど一見して不公平な性質を持つものであったとしても,社会的かつ環境質的な目的を持つことが認知されれば,一般的に司法的にも社会的にも許容されることが示されている. さらに,コミュニティ・ゾーン導入のプロセスや課題に関する研究も見られる35)39)40)42).例えば,山岡ら35)は,名古屋市のコミュニティ・ゾーン形成事業を事例とし,行政へのヒアリング調査,住民アンケート調査により,事業への住民参加の現状把握,問題点の抽出を行っている.結果,行政と住民の調整役が必要なこと,ゾーン周辺地区への情報提供,影響の分析が必要であることが示されている.また,事業の身近さが住民の事業効果に対する意識に影響することを明らかにしている. 2-8.考察 表 2-1で示したJ-STAGEにおける検索該当論文数(ただし,交通安全対策とは一切関連のないものも含まれる)からわかるように,キッズゾーン(3件),生活道路対策エリア(7件),あんしん歩行エリア(15件)についてはゾーン対策に関する論文が少なく,十分な知見が得られたとは言い難い.一方,ゾーン30(127件)とコミュニティ・ゾーン(97件)についての論文は数が多く,より力を入れた対策であることが考えられる. ゾーン30とコミュニティ・ゾーンの特徴を見ると,面的な速度規制等(ソフト対策)と物理的デバイス等(ハード対策)の併用を推進している点や住民参加を前提としている点等,他のゾーン対策と比べて共通点が多い印象を受ける.また,警察庁の通達47)からも読み取れるように,ゾーン30はコミュニティ・ゾーンを改善し,引き継いだ面的な対策であると言える. 2つのゾーン対策に関する既往研究の傾向を見ると,コミュニティ・ゾーンについては対策地域住民の事業に対する意識調査を行ったもの,具体事例を通して住民参加を含めた事業プロセスを示したもの等,事業に対する住民参加,住民意識について分析したものが多い印象を受ける.これは,それまで行政主体で行っていた生活道路の交通安全対策とは異なり,コミュニティ・ゾーン形成事業では事業開始時点からの住民参加の規定(具体的には住民の代表を交えた協議会の設置)があり,住民の事業に対する意識に注目が集まったためであると考えられる.

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