これからの「生活道路」空間マネジメントに関する研究
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コミュニティ・ゾーンの概要 コミュニティ・ゾーンは我が国において1996年度(平成8年度)に導入が開始された面的な交通安全対策である.住宅地域や商店街等の日常生活が営まれる地域で,歩行者・自転車関連の事故が多い,もしくは生活環境が侵害されている地域に設定される.最高速度30km/h規制,通行止め,一方通行規制等に加え,物理的デバイスの設置等を実施している. 論文の傾向 コミュニティ・ゾーン形成事業に対する住民意識に関しては,主に,事業への賛成度,参加意識,評価等に関する研究26)27)28)29)30)31)32)33)34)35)36)37)38),事業における合意形成に関する研究39)40)がみられる.前者の例として,例えば,塚原ら27)は,名古屋市でコミュニティ・ゾーンに指定されている3地区で住民意識アンケート調査を実施し,一定期間供用時のコミュニティ・ゾーンに対する住民意識を調査している.結果,維持管理に対する住民の参加意向は自宅前の道路整備状況に関わらず,40%程度は参加しても良い意向であること,維持管理意識の向上は自宅前道路に対する満足度や地域との関わり意識に影響を与えること等が示されている.長嵐ら28)は,全国のコミュニティ・ゾーン形成事業の導入状況や計画内容を整理し,当初の計画案と採択された計画案の相違の原因や背景について,住民意見との関係に着目して考察している.結果,住民の反対意見,予算的制約,空間的制約等により,適切だと言われている対策と実際に策定された計画に乖離している項目があること,策定されにくい一方通行等を策定できた地区は,問題抽出時に住民と行政が話し合う場があり,住民同士が意見交換できる手法を用いている傾向にあること等を明らかにしている. 後者の例として,江夏ら39)は,福岡市のコミュニティ・ゾーン形成事業を事例とし,事業の協議会議事録の整理とヒアリングによって,事業への住民参加のプロセス,対立点に対する合意形成について分析している.結果,対立点の合意形成の促進には地域のリーダー的存在が必要なこと,長いプロセスをともにすることで行政と住民の間に信頼関係を築き得ること,情報伝達の工夫や双方向な情報交換と共有が重要であること等が明らかとなっている.外井ら40)は,福岡市のコミュニティ・ゾーン形成事業を対象とし,事業の協議会代表者と事業に異議を唱える住民それぞれに対するヒアリング調査から,相互の対立点と合意に向かっての詳細なやり取りについて分析している.結果,住民の多くが協議会の詳細までは認知しておらず,回覧板や公民館便りによる情報伝達力に限界があること,情報連絡体制の不統一によって主張の食い違いが生じる可能性があること等が示されている. また,事業の「社会的公平性」に言及した研究がいくつか散見されている29)30)31)33)41)42).例えば,山岡ら29)は,名古屋市のコミュニティ・ゾーン形成事業の整備完了地区,整備予定地区,未整備地区を中心にアンケート調査を実施し,事業8

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