2 1-2.研究の位置づけ 1-2-1.健康寿命と都市・交通要因に関する既存の研究 健康や健康寿命と都市・交通要因との関係について分析を行った研究は以下のようなものがある.秋山・井ノ口2)は,都道府県単位のデータ分析から,自動車保有台数が多いほど健康寿命が長くなる傾向にあることを示している.佐々木3)は,アンケート調査から公共交通を利用しての診療所や病院までのアクセシビリティが悪い地区では,健康状態が悪いと回答する確率が高まる傾向にあることを示している.張・小林4)は,アンケート調査の結果から,大都市では公園までの距離が,その他地方政令都市ではバス停までの距離が健康関連QOLに有意に影響していることを明らかとしている.森ら5)は,都道府県を対象としたデータ分析から,公共交通利用分担率が高くなると,糖尿病や高血圧性疾患などの受療率が低いことや,年間医療費が低い傾向について示している.一方で,公共交通利用分担率が高いほど健康寿命や健康自覚期間の平均が小さくなる想定とは逆の傾向についても示されている.このことから,健康寿命を構成する要素は様々であり,身体活動との関係は一概には言えないこととしてまとめられている.谷本6)は,アンケート調査の結果から公共交通の利用が、階段を手すりや壁をつたわらずに昇ることや、15分くらい続けて歩くことなどの運動機能の向上に有意に影響していることを示している.安東ら7)は,病院職員へのアンケートおよび健康診断結果から,与謝の海病院では,バス利用頻度が中性脂肪や血糖値を下げる影響について示している.内藤ら8)は,二次医療圏レベルの平均自立期間に対し,女性65歳のものでは認知症サポーターの割合が高い方が自立期間が長いことや,男性65歳のものではリハビリ療法士数が高い方が自立期間が長いことなどについて示している. 1-2-2.高齢者の健康への影響要因 高齢者の健康について,老年学を中心に数多くの研究が行われている.例えば,Tamadaら9)の研究では,ほとんど笑わない人は,ほぼ毎日笑う人と比較して新規要介護認定リスクが1.4倍であることが示されている.また,Saitoら10)の研究では,週に1回以上趣味やスポーツの会に参加した高齢者はその後11年間の介護費用が30万円~50万円低いことを示している.Fujiharaら11)の研究では,社会参加の多い地域では,少ない地域と比較してIADL低下のリスクが10%低いことを示している.Satoら12)の研究では,山梨県のコミュニティ「無尽」の参加者は,非参加者と比較して3年後に活動能力を維持している人の確率が1.75倍であることを示している.Takahashiら13)は,社会参加する高齢者は9年後の要介護リスクが0.8倍,死亡リスクも0.8倍であることを示している.Taniら14)の研究では,外出時に車を利用せず近隣に野菜や果物が手に入る食料品店が存在しない場合,死亡リスクが1.6倍になることを示している.吉澤ら15)の研究では,高齢者のフレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)に対するリスクが,身体活動を行っておらず,文化活動とボランティア・地域活動を行っている人で2.2倍,身体活動を行っており,文化活動とボランティア・地域活
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