46 5.研究のまとめ 5-1.研究のまとめ 本研究では,高齢者の移動手段確保や健康寿命延伸などについて全国の中核市の事例調査を行った.各自治体の事例について丁寧に調査できた点で価値があると考えられる.また,健康寿命に影響する要因について高齢者のためのバス運賃施策や,既存の都市・交通データを用いて分析を行った.その結果,男性の健康寿命延伸には高齢者の活発性が重要であることや,女性の健康寿命延伸には都市内交流が重要であることなど,ある程度解釈できる結果が示された.また,バス無料施策が健康寿命や平均寿命の延伸に寄与する結果となった.その一方で,バス定額施策やバス乗り放題施策,バス割引施策についても健康寿命延伸の効果があると予測していたが,そのような結果にはならなかった.その要因については課題として後述する. 5-2.研究の課題 本研究は,健康寿命や平均寿命に影響する交通要因や都市要因,自治体の施策要因の分析を目標としていた.ただし,以下の点で課題がみられる. 課題①:要因分析について健康施策の要因を組み込めていない 本研究では,健康寿命や平均寿命に対する影響要因を明らかにするために重回帰分析を行ったが,その説明変数に福祉系の部署から得られた施策の実施状況が組み込めていない.これは,各自治体の施策が多様で多岐にわたり,特定の変数に集約することが困難であったためである.また,3施策までの回答しか得ることができないアンケート構成であったため,それ以上の施策については追うことができなかったことも課題である.重要度の高い3施策の回答を得ているが,4番目以降の施策の実施が健康寿命や平均寿命に影響している可能性も否定できない.健康寿命の延伸に対しては,外出と交流が重要とされている.高齢者サロンの設置や,健康診断,イベントの実施なども健康寿命に影響していることは十分に考えられるため,今後はこれらの施策による影響も分析することが必要である. 課題②:各種寿命への影響要因で解釈ができない変数の存在 健康寿命や平均寿命への影響要因を明らかとするための重回帰分析の結果にて,解釈がつかない変数が存在する.本研究ではバス停数やバス路線延長が健康寿命や平均寿命に正の影響があると仮定していた.しかし,「バス停数/面積」は男性の平均寿命に負の影響を与えている.また,「バス路線延長/面積」は男性の平均寿命,女性の健康寿命および平均寿命に負の影響を与えている.ここでは面積あたりのバス停数や,面積あたりのバス路線延長を変数に用いたが,居住可能面積などで分析を行うことも考えられる.高齢者がバスを利用することで外出が促進され,健康寿命や平均寿命が延伸することを想定していたが,バス利用
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