重度障がい者の外出を伴う余暇活動の企画・実行プロセスと交通配慮事項に関する研究
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9移動支援事業は介護保険と比べて自己負担がかからない、施設の中まで付き添いをしてくれる、市が勧める、といった指摘や、移動支援事業所における人員調整、相性の調整の苦労などが明示されており興味深い。また、福祉有償運送の課題について、福祉有償運送の運転時間は移動支援のサービス提供に組み入れることができない(道路運送法79条)ため、有償運送は利用者負担になるが、事業所では利用者への配慮から実費を下回る運賃が設定され、有償運送分の人件費が補填できないことや、運転者要件が定められており、従業者不足に拍車をかけているといった指摘もなされている。 また、谷口17は兵庫県内各市町及び事業者実態調査を通じて、訪問系事業所の状況、移動支援支給の状況、事業の対象となる障害種別・目的等、移動支援事業の課題及び改善策・要望を把握している。結果、市町村の現状として、移動支援支給決定者比率に市町格差があり、最大37.9倍の差があること、移動支援の対象目的について「通年かつ長期=30%」「通学=40%」「通所・通園=35%」「経済活動=15%」、「いずれも認めない(支援費制度の移動介護に設けられていた制限を継承しているもの)=57.3%」であったこと、移動手段・交通機関の状況等での課題は、交通基盤そのものが脆弱、移動距離が長く利用者負担が重くなることを挙げる市町が多く、移動手段・交通機関の状況等での改善要望は、車両移送型や福祉有償運送に代替を求める市町が多いこと、事業所不足、人材不足を挙げる市町が多いことが示されている。さらに事業者の現状として、回答事業者の7割が単価の低さを課題として挙げていること、人材確保は収支とならんで最も回答が多く、人材不足、ニーズの偏りは都市部のみにみられること、移動手段、交通基盤に係る課題として、公共交通等の交通費、交通基盤の不足、バリアフリーの遅れが指摘されていることなどが指摘されている。 移動支援事業は、他の支援事業に比べて柔軟性が高いなど、優れた点が指摘されるものの、事業所や人材不足といった地域間の格差が顕著に生じていること、その代替として福祉有償運送に期待が高いものの、基礎とする制度的枠組みの違いから柔軟な対応ができず、利用者や事業者に負担が生じていることなどがわかる。今回の整理では重心者の移動支援の利用実態について明示しているものはみられなかった。よって、この実情が重心者の外出等にどのような影響を与えているかまでは明らかになっていない。 2-4.まとめ 障害者自立支援法の枠組みでも、障害当事者の地域での生活を推進しているなかで、社会における在宅介護の役割が極めて重要となっている。他方で、余暇活動目的で利用できる移動支援サービスは、制度的枠組みの制約上、地域間格差が生じるなどの課題があるとともに、活用し外出するにしても家族等介助者への負荷は大きく、その頻度や範囲は極めて限定的にならざるを得ないといった極めて厳しい状況が生じていると 17 谷口 泰司(2010),障害福祉サービス提供基盤の地域格差に関する一考察--移動支援事業の実態調査を通じて, 関西福祉大学社会福祉学部研究紀要, 13, pp.119-126

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