空間認知特性に着眼した高齢運転者が加害者となる出会い頭事故対策に関する応用的研究
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30 4.高齢運転者の空間認知特性からみた無信号交差点における対策案の検討 4-1.本研究の成果と対策案の検討 本章では,本研究で得られた知見を踏まえた,高齢運転者に対する無信号交差点における対策案の検討を行う. 本研究では,高齢運転者が特に加害者となりやすい特徴を有する無信号交差点において,注視点の挙動を水平方向成分と垂直方向成分に分け,視線移動距離の多さ=空間認知の高さという仮説を置いて,分析を進めた. 水平方向成分と垂直方向成分でみた場合,特に,高齢運転者で,一時停止のある非優先道路側での水平方向成分の少なさが顕著であった.この傾向について,重回帰分析を通じた性差や身体機能の差の調整がなされた結果から,高齢運転者は「停止中」及び「停止線から隅切り」の区間において,有意に水平方向の視線移動距離が少ない,すなわち,空間認知に課題のある可能性が高いことがわかった.非優先道路における「停止中」並びに「停止線から隅切り」という区間は,直後に優先方向交通や徒歩や自転車といった交通と交錯することから,安全な通行に向けて他の区間に比べ多くの情報を収集する必要がある.このような区間において,自覚の有無にかかわらず空間認知が非高齢者に比べて有意に少ないという高齢運転者の傾向は,走行安全上,極めて大きな課題があると判断できよう. これらの状況を踏まえると,特に交差点における停止線およびそこから隅切り部に至る範囲において,車載カメラや進行方向に設置するなどした路側情報板等を通じて特に水平方向に広がる空間状況の情報提供を行うことは,高齢者の安全な通行を促す上において有効であるといえよう. また,本研究では特に,水平方向の視線移動距離と身体機能の関係性に着眼した分析を進めてきた.無信号交差点における水平方向の視線移動距離の多さは,視力といった視機能に関連する能力より,むしろ柔軟性や平衡性や敏捷性といった全身の運動機能に有意に関連していた.特に注意すべき点の多い無信号交差点では,短い時間で多くの空間の状況を認知するために俊敏な首振りや体を曲げるなど自身の身体的動作が重要になってくる.本研究の成果は,このような動作が適切にできないことが,交差点通過に必要な情報を十分に獲得できないことに直接的につながっていることを示唆している. これらの状況を踏まえると,高齢者の運転適性を考える上では,視機能に加えてこれら柔軟性,平衡性,敏捷性といった身体機能も併せて把握していくことが望ましいものと考える.安全かつ簡便にできる運転適性チェックとして,このような項目をベースと

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