32.Wi-Fiパケットセンサーを用いた歩行者流動調査の事例整理 2-1.既往研究 Wi-Fiパケットセンサー(WPS)を用いた調査は、これまでに数多く行われている。スマートフォンの普及が進んだ2010年代中頃から取り組まれるようになった。これまでに実施された調査事例については、寺部ら1)に詳しく整理されている。ここでは、既往調査事例の中でも主要なものについて整理する。 (1)Wi-Fiパケットセンサーを用いた調査手法 浅尾ら2)は、WPSを用いた交通流動解析について、京都府宮津市における調査を事例に、センシングの手法、必要となるインフラの紹介、データ解析や視覚化手法の例示を行っている。特に、プライバシーの取り扱いに関する配慮が重要であることが示されている。 また、西田ら3)は、Wi-Fiパケット観測の精度と個人情報保護について報告している。ここではまず観測精度について述べ、個人情報保護については次節で述べる。 観測精度については、プローブリクエストが届く距離、スマートフォン保有率とWi-FiON率、MACアドレスのランダマイズ、設置環境の影響などについて考察している。 ここで、Wi-FiON率について補足する。スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器は、携帯電話通信網だけでなくWi-Fiによる通信を行うことができる。モバイル機器は、Wi-Fi通信が可能なネットワークを探すために、プローブリクエストを断続的に発信している。これにより、利用可能なWi-Fiの電波が近くにある場合、モバイル機器のディスプレイ上に、Wi-Fiと接続するかどうかの確認画面が表示される(過去に接続したことがある場合は、確認なしにWi-Fiに接続されることもある)。しかし、Wi-Fiを利用することがないなど、Wi-FiをONにしていない人(モバイル機器)も存在する。WPSは、Wi-FiをONにしていない端末は検知できない。 また、MACアドレスのランダマイズについては、MACアドレスのランダマイズ機能を持ったモバイル機器が普及し始めている。これは、個人情報を保護することが狙いのようである。MACアドレスのランダマイズ化が進むと、一つのモバイル機器が発するプローブリクエストが時間によってMacアドレスが変わることとなり、滞在時間や移動の分析ができなくなる。 以上の状況を踏まえて、太田ら4)はWPSの計測値から歩行者の実数を推計する手法を提 1 寺部慎太郎・一井啓介・柳沼秀樹・小野瑞樹・田中皓介・康楠:Wi-Fiパケットセンサーを用いた歩行者行動・観光者周遊行動研究の包括的レビューとそれを踏まえた分析例示, 土木学会論文集D3(土木計画学), Vol.75, No.5, I_669-I_679, 2019. 2 浅尾啓明・森本哲郎・望月祐洋・西田純二・安東直紀:Wi-Fiパケットセンサーによる交通流動解析, 第53回土木計画学研究発表会・講演集, Vol.53, pp.2104-2110. 2016. 3 西田純二・宇野伸宏・倉内文孝・中川義也・望月祐洋:Wi-Fiパケット観測の精度と個人情報保護, 第57回土木計画学研究発表会・講演集, Vol.57, pp.1-10, 2018. 4 大田香織・大村真輝・辻堂史子・浅尾啓明・西田純二:Wi-Fi歩行者流動センサによる計測値からの実数推定手法, 第 57回土木計画学研究発表会, 講演集, pp.1-9, 2018.
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