自転車の通行空間整備過渡期における道路政策のあり方に関する研究
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2 が多く、研究開始初期には既に講習を終えた学校が多かった。このことから、調査の事前調整が適切に行えなかったこともあり、自転車通行空間が整備されており、自転車通学生徒数の多い学校での調査ができなかった。加えて、当該講習対象者を中学1年生(もしくは高校1年生)といった学年を限定しているところが多く、講習効果の計測にあたっては、当該学年のみのデータで解析を進めることが望ましいと考えられたが、学年を判別する情報が映像データから抽出することができず、他の学年を交えた、すなわち、講習を受講していない(正確には、直近で受講していない)データが混在した形での解析を行わざるを得なくなった。これらの制約は、結果の信頼性を少なからず損ねるものであったと考える。 本年度は、上記の課題を受けて、第2章にて、自転車通行空間にかかる走行実態・意識の追加調査を実施した。特に、映像による講習を受講した生徒か否かの判別の必要性を回避できるものとして、それほど多くはない、全校生徒に対して自転車講習会を実施している中学校、高校を対象校とすることとした。 (2)新たなアプローチの必要性 先に示したように、講習後に学生は「ルールを遵守する」としながらも、一部改善は見られたものの車道走行や歩道走行時の徐行といったルールへの対応に改善傾向は確認できなかった。具体的には、学生の半数以上は自転車の走行ルールについて認知していたが、「歩道がない・もしくは極めて狭い」、「勾配がある」などの構造的要因がない箇所では、「歩道走行」が好まれ、かつその走行速度は講習で教示されている「徐行」とはいえないものとなっていた。すなわち、学生の多くは「(ルールを)知ってはいる(理解している)けど、守らない」のである。この結果は「知識」を与えるという講習スタイルのみでの限界を明示しているともいえよう。 本年度は、この打開に向けて「同調」という社会心理学的アプローチの有効性を検討する。同調は、集団状況で、他の成員が一致して自身と異なる主張をするとき、その主張に引きずられる現象のことを指す。「同調」に関する有名な実験として、「アッシュの線分実験」がある1。アッシュは、お互いに未知の8人の学生を被験者として、図 1-1の上図のような2枚のカードを示し、左のカードの線分と同じ長さの線分を右のカードの3つの線分の中から選ばせた。被験者は、時計回りに順番に口頭で回答していった。この実験では、本当の被験者は8番目に回答を要求される人のみで、他の7人の被験者は、どのように回答するかをあらかじめ実験者と打ち合わせておいたサクラであった。18回中12回は、7人のサクラが全員一致して同じ誤った回答を行う集団圧力試行であった。被験者の誤答は、集団圧力をかけられない統制条件では1%に満たないほど簡単な課題であったが、集団圧力条件では、多数者の判断に同調した誤答は、全判断の32%に達した。また、この全員一致の圧力は、多数派が3人から4人で最大になることを示した(図 1-1の下図)。加えて、アッシュはこの同調行動は多数派が全員一致であることが重要な要因であることも明らかにしており、集 1 山岸俊男:社会心理学キーワード、有斐閣双書、2001.1

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