5 2-2.医療費への影響要因 高齢者の支出の中でも、特に医療費は加齢により大きく変動する。さらに高齢になると国民健康保険へ切り替えられるケースが多くなり、財政的な負担が大きくなる。このため、高齢者の医療費を如何に抑制できるかが重要となる。この医療費の増減に与える影響要因についてマクロ・ミクロレベルの視点からみている研究が散見される。 印南3は、日本全国3,251市町村の市町村別の国民健康保険(一般・退職者・老人)医療費データおよび医療福祉サービスデータ,地域特性データを用いて、全国市町村をカテゴリー化し医療費の高低を比較している。結果、老人医療費は都市型、住宅地・核家族型で高くなっており、過疎地域型が次いで低く、住宅地・2世帯型が最も低いことを明らかにしている。 罇4は、老人医療費の都道府県格差に及ぼす要因の検討をしており、結果、老人医療費は地域の病床数が増加要因、持ち家比率、保健師数が減少要因であることを示している。 谷口ら5は、我が国における市区町村別にみた高齢者の入院医療費格差についての実態と地域格差の規定要因に注目した文献レビューをしている。結果、入院医療費は入院受診率及び入院1件当たり入院日数に共通して正の相関を示し、逆に1人1日当たりの入院医療費と負の相関を示した主な変数は「高齢化」「都市化」を示唆する指標であったこと、一般健康診査受診率の向上などの「老人保健事業の推進」に関連する指標の医療費の抑制における影響は必ずしも統一的な見解は得られていないといった整理をしている。 国外に着目すると、高齢者に限定はされていないものの、近年、生活者の所得などによる社会経済的地位(SES)と医療費や余命などの関係性を扱ったよりミクロレベルでの研究がみられる。 Usama Bilal, et al.6は、カタロニアに住む一般人口の成人男性と女性における、個人レベルのSES、平均余命、および死亡率の関連を評価している。結果、SESが非常に低い男性と女性の平均寿命は、SESが高い男性と女性に比べてそれぞれ12.0年と9.4年低かったこと、低SESは、あらゆる年齢の男性と女性の両方の死亡率とも強く関連していること、カタロニアの成人人口全体では、普遍的で質の高い医療保険が利用できるにもかかわらず、SESが低いと平均余命が短くなり、死亡率が高くなることが明示されている。 3 印南一路:医療費の決定構造と地域格差,医療と社会,7-3,1997,pp.53-82 4 罇淳子:老人医療費の都道府県格差に及ぼす要因の検討―老人医療費の多寡によるグループ分けからみた分析―,新潟青陵学会誌 第6巻第1号,2013,pp.1-11 5 谷口力夫,藤原佳典,渡部月子,長谷川昭弘,高林幸司,星亘二:高齢者入院医療費の市区町村格差に関する研究--我が国における先行研究の文献的総括,総合都市研究 (74), 65-76, 2001-03 6 Usama Bilal, Miguel Cainzos-Achirica, Montse Cleries, Sebastià Santaeugènia, Xavier Corbella, Josep Comin-Colet, Emili Vela, Socioeconomic status, life expectancy and mortality in a universal healthcare setting: An individual-level analysis of >6 million Catalan residents, Preventive Medicine Volume 123, June 2019, Pages 91-94
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