1 1.はじめに 1-1.背景と目的 世界でも類を見ない少子高齢化の進む我が国では、増大する年金・医療費等社会保障費の対応(行政支出の増大)、生産年齢人口の減少(税収の減少)といった行政課題が顕在化している。この課題への対応策の一つとして、高齢者がいかに健康に長く活動できる環境を効率的(低コスト)に整えていけるかという点が重要になっている。すなわち、高齢者の一人当たり社会保障費を低下させるとともに、高齢者の就労などの経済活動を通じた税収を高める環境づくりを行うというものである。上記の一般的議論として、定年の延長、年金受給年齢の引き上げ、医療制度改革などがある。他方で、高齢者の継続就労を支え、医療費の低減を図るための社会基盤の方向性に関する議論がある。 社会基盤の方向性を議論する上において、自治体の役割は極めて重要である。主に福祉、保険医療の活動に重きを置いた社会基盤の方向性に関しては、これまでWHOの提唱する健康都市や、2015年に国連にて採択されたSDGs(持続可能な開発目標)などにおいて包括的観点からの動きがみられる。他方で、社会基盤を含め都市のバックグラウンドは都市によって多様である。それは、それぞれの都市が活動的な高齢者を支える社会基盤のあり方もまた多様であることを意味する。そして、我が国が直面する超高齢化社会にフォーカスし、高齢者の心身機能の変化や活動水準の変化をその置かれている環境の影響を定量的に見定めながら、健康に長く活動するための「社会基盤」を自治体がいかに「効率的」に整えていけるかという観点からみた具体的な方向性に関する議論が極めて重要と考えるが、申請者らが知る限り、そのような議論は十分とはいえない。 本研究は、多様な都市が高齢者の活動維持・増進を望ましい形で高めるうえにおいて、どのような社会基盤が重要となるかを、全国都市の社会基盤整備状況と、そこに住む高齢者の実態分析を通じて明らかにすることを目的とする。 1-2.内容 本研究では高齢者が健康に長く活動できる環境を効率的に高めるという点において、経済的側面、心の側面の2視点から包括的に捉える。経済的側面においては、医療費などの健康関連費用の低減や就労による経済活動を通じた所得の増加といった、個人の「財務的効率」に類する概念に着目する。心の側面においては、一般に身体機能の低下していく高齢者が活動を実施していくには、「生きがい」といった心の充実程度に着目する。これら
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