超高齢社会における社会基盤の在り方に関する研究~高齢者の財務的効率・生きがいに着眼して~
39/43

35 6.超高齢社会における社会基盤の在り方のとりまとめ 本研究の成果を通じた、超高齢社会における社会基盤の在り方について以下のように整理する。 都市の社会基盤が高齢者の財務的効率に与える影響のマクロ分析 都市の特定の社会基盤の整備状況が、高齢者の「財務的効率」に影響を与える影響について巨視的(マクロ的)観点から分析した。 モデル構築を通じて、精度がある程度担保されている行政区分と、そうでないものが導出された。ここからは、ある程度精度の担保された「中核市・特例市」及び「市」における「医療費」「前期高齢者労働力率」の傾向からとりまとめを進める。 表6-1に全体を俯瞰するために傾向をまとめた結果を示す。この表ではそれぞれのモデルにおいて有意となった指標とその符号を整理している。ほとんどの変数で、「医療費」、「前期高齢者労働力率」が重複して有意となっておらず、財務的効率を高める上で、それぞれの変数の特性(符号)を踏まえた政策をすすめても問題はないことが示唆された。「医療費」で中核市・特例市及び市双方で有意となっていた、すなわち都市規模を超えて影響を与えていたのは、「一般診療病床数」(正の相関)、「在宅療養支援診療所数」(正の相関)、「公営住宅戸数」(中核市・特例市=負の相関、市=正の相関)、「高齢化率」(正の相関)、「労働力率_総数_前期高齢」(負の相関)、「徒歩だけ」(正の相関)であった。高齢化率と労働力率は、先に触れたように今回対象とした医療費が市町村国民健康保険であることによる制度的特徴が反映されているものである。「一般診療病床数」や「在宅療養支援診療所数」の多さ、すなわち提供される医療サービスが充実しているという点が医療費の増加と密接につながっている点は、既存研究でも指摘されている33。他方で、「徒歩だけ」について、符号の状態から「徒歩だけ」での通勤通学ができるような都市を推進することが高齢者の医療費を高めてしまうことになる。一般に「徒歩」での交通を推奨することは市民の健康増進がイメージされることから、医療費の削減につながるイメージが想定されるが、宍戸ら34の研究や、本研究のミクロ分析の整理からも示されるように、散歩などの身体活動の活動量と個人レベルでも医療費との関連性が必ずしも確認できてはいない。他方で、徒歩交通の推進は、交通事故等による被害の増加などの影響も予想されることから、じつは健康まちづくりにおける高齢者への徒歩交通の推進などが「医療費の削減」といった観点から推し進められるうえでは慎重に検討されるべきものなのかもしれ 33 罇淳子:老人医療費の都道府県格差に及ぼす要因の検討―老人医療費の多寡によるグループ分けからみた分析―,新潟青陵学会誌 第6巻第1号,2013,pp.1-11 34 宍戸由美子, 井手玲子, 二階堂敦子, 中野匡子, 安村誠司:運動指導教室参加者の運動習慣・医療費などの変化に関する研究 —国民健康保険加入者を中心に—,日本公衆衛生雑誌,2003年,50巻,7号,p.571-582

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る