30 5.都市の社会基盤が高齢者の財務的効率・生きがいに与える影響のミクロ分析 高齢者を対象に意識調査を実施し、高齢者の財務的効率、生きがいに与える影響要因に関する分析をする。 5-1.方法 図5-1に本分析を行う上での仮説を示す。個人の活動(量)はその個人の身体的要因や日常生活の能力といった個人の特性と、利用している交通手段や居住する地域の状況といったその個人が置かれている環境に影響されるとした。例えば、病気などで心身の状態が優れないことは、活動の抑制要因になることが予想されるし、個人の日常生活の能力が活動の幅に影響を与えそうであることも予想されるためである。同様に個人の住んでいる地域の交通機関や施設の状況だったり、様々な活動を支援してくれる家族の存在が活動に影響を与えそうであることも予想される。この後者の「個人が置かれている環境」の視点が、本研究で特に注目している点である。なお、この個人が置かれた環境という概念に社会基盤は包含されている。本研究で扱う「活動」は、「就労」といった義務的側面が強いものの所得や社会とのつながりを維持・継続させる側面の強い活動、「近所づきあい」、「友人との交流」、「趣味・習い事」といった交流や文化的な側面の強い活動、「散歩・軽い体操」、「運動・スポーツ」といった身体機能の維持・増進といった側面の強い活動とした。 同時に、このような活動(量)の維持や増進が、確かに高齢者の所得を高め、医療費を削減するような個人の財務的効率につながるのか、そしてより豊かで健康的な心の状態へつながるのかどうかについても確認をする必要がある。後者の「豊かで健康的な心の状態」については、本分析では「生きがい」という概念を採用する。生きがいは抽象概念であり、これまでも長谷川ら30、近藤ら31などによる様々な提案があるが、ここでは60歳以上の信頼性・妥当性が確認32されており、かつ調査項目数の少なさから比較的簡便に調査が可能であるikigai-9を使用した。 30 長谷川明弘,他:高齢者のための生きがい対象尺度の開発と信頼性・妥当性の検討:生きがい対象と生きがいの型の測定,日本心療内科学会誌,2007,11(1),5-10 31 近藤勉,鎌田次郎:高齢者向け生きがい感スケール(K-1式)の作成および生きがい感の定義,社会福祉学,2003,43(2),93-101 32 今井 忠則, 長田 久雄, 西村 芳貢:生きがい意識尺度(Ikigai–9)の信頼性と妥当性の検討,日本公衆衛生雑誌,2012 年 59 巻 7 号 p. 433-439
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