超高齢社会における社会基盤の在り方に関する研究~高齢者の財務的効率・生きがいに着眼して~
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8 ている。結果、農村地域と大都市近郊地域の間で「生きがいあり」の割合に有意差を認めなかったこと、「生きがい」の関連要因として、両地域共に健康度自己評価、知的能動性ならびに社会的役割が示されたこと、農村地域では家族構成が強い関連を認め、性別や世代によって関連の強さが異なったこと、大都市近郊ニュータウン地域では男性において入院経験の有無が「生きがい」の有無との間に強い関連があり、世代によって正負の関連が変動したことなどが示されている。 岡本19は、大阪市A区在住の高齢者を対象に行った調査をもとに、高齢者の生きがい感に関連する要因分析を実施している。結果、生きがい感高位群の特徴は、独居ではない者、主観的健康度が高い者、暮らし向きの程度が高い者、家族・親戚と会話をほぼ毎日している者、友人・知人と会話を週2回以上している者、社会的活動をしている者、学習活動をしている者、運動・散歩をする頻度が高い者、活動情報の認知度が高い者、人が集まる場がもっとあればよいと思う者であったといった成果が示されている。 2-5.本研究の特徴 以上のように本研究でターゲットとしているエリアでは多くの有益な研究が蓄積されている。このなかで、本研究の特徴を述べるとすれば、まずは医療費の削減に加え、高齢者の就労活動を維持・活性化させる上での社会のあり方についても議論(すなわち財務的効率の議論)しようとしている点が挙げられよう。これまでの研究の多くは社会保障費(すなわち医療福祉費)の削減やそれに通じるとされる活動の活性化に着眼しているものが多い一方、高齢者の就労といった経済活動の支援の在り方に関するものはほとんどない。これは、これまでは高齢者になれば就労を終え、余生を過ごすといった社会通念があったからに他ならず、そもそも就労を継続するといった観点での政策や取り組みに関してほとんど注目をされてこなかった。佐藤ら20は「収入のある仕事」の高齢者の活動能力維持における重要性を指摘し、「行政は健康で働く意欲のある高齢者の体力・能力にふさわしい短時間勤務や任意的就労など多様な就業機会の確保が必要であり、高齢者が安心して活動できるような公共交通手段を整備して移動の自由も確保しなければならない」と論じている。高齢者における継続就労の重要性やその活動を維持・増進する社会基盤の在り方という点に注目している点に、本研究の独自性があるといえよう。 加えて、地方自治体の政策において重要なポイントとなるのは、当該政策の経済的妥当性と、公的妥当性の議論であると考える。効率的な行政運営が求められるなかでは、いか 19 岡本 秀明:高齢者の生きがい感に関連する要因 : 大阪市A区在住高齢者の調査から,和洋女子大学紀要. 家政系編,48,2008, pp.111-125 20 佐藤秀紀, 佐藤秀一, 山下弘二:地域在宅高齢者における活動能力と社会活動の関連性,日本保健福祉学会誌,2002,8,2,p.3-15

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