自動運転普及がもたらす都市交通への影響研究
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915.⾃動運転の普及過程の想定 5-1.⽇本における⾃動⾞や新たなサービスの普及過程 ここでは、⾃動運転の普及について考える上での参考とするため、⽇本における過去の⾃動⾞の普及過程や、ETCや情報通信端末の普及過程を概観する。 (1)⾃動⾞普及初期(⼤正・昭和期)の⾃動⾞の普及過程 普及初期においては、⾃動⾞は富裕階級の玩具であった。⾃動⾞税が⾞両価格の3倍(昭和10年頃)であるだけでなく、その利⽤には運転⼿と助⼿を雇う必要があった。そうした中でも、⾃動⾞は乗合バスなどの営業⽤⾞両から普及していった83)。 政府内で運輸を所管するのは鉄道省であり、鉄道保護の観点から⾃動⾞輸送(バスやタクシー)や道路整備を軽視された時期もある84)。 こうした⾃動⾞への敵対的姿勢は道路⾏政の⾯にも反映して、道路整備は⾃動⾞交通との対応を書いたものに終始した。結果、第⼆次世界⼤戦後の復興・発展過程におけるモータリゼーションへの対応に遅れをもたらし、輸送隘路問題を⼀層深刻なものにすることになる。こうした状況から、1951年のワトキンス調査団の報告において「⽇本の道路は信じがたいほど悪い。⼯業国にして、これほど完全にその道路網を無視した国はない」と⾔わしめた85)。当時(⼤正から昭和初期にかけて)の旅客⾃動⾞交通⾏政が貧困であったために、将来の復興・発展の⾜かせとなったと⾔えるであろう。 現在の⾃動運転に対する⽇本政府の取り組み状況から考えて、過去の道路環境のようなことを⾔われることはないだろうが、教訓として認識しておくことは重要であろう。 83) 奥井正俊: ⼤正・昭和戦前期における⾃動⾞の普及過程, 新地理, Vol.36, No.3, 1988. 84) 廣岡治哉: 近代⽇本交通史, 法政⼤学出版局, 1987. 85) 国⼟交通省: 道路⾏政をめぐる主な経緯について, 社会資本整備審議会第11回道路分科会資料, 2009.

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