高齢運転者の増加を考慮した安全・安心なモビリティ実現を目指した研究
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79 表 7-1 高齢運転者の心身機能低下に対する既存のADASによる補完可能性 関連する 心身機能の 低下 生じる運転時の交通事故リスク 既存AD ASによる 補完可能性導入促進すべき ADAS機能 認知 ・視力の低下 ・視野の縮小 信号交差点右左折信号見落とし △ 信号情報提供 無信号交差点一時停止標識見落とし △ 標識情報提供 判断 ・ワーキングメモリの低下 ・過剰な自信 顕在的ハザード知覚の低下 ○ 行動予測ハザード知覚の低下 △ 危険予測情報提供 潜在的ハザード知覚の低下 - 危険予測情報提供 無信号交差点での不適切な安全確認 △ 安全確認アシスト 無信号交差点での不適切な二段階停止 △ 安全走行アシスト 操作 ・柔軟性・平行性・瞬発力の低下 アクセル/ブレーキの踏み違い ○ ※○:直接的に能力を補完するもの、△:間接的にリスク軽減に対処できるもの、-:補完できないもの 7-2.普及促進のための社会的制度・仕組み 上述のような機能を効果的に普及、促進させていくためには、大きく開発支援、市場に対する刺激、適材適所を促す社会制度の導入が重要であると考える。まず、開発支援については、ADASのような技術はメーカー等による開発に支えられていることは自明である。よって、社会的影響も勘案し、ADASに関する優れた技術を開発しようとするメーカーに対しては研究開発の補助制度、実証実験特区の整備等を通じた社会的支援を推進していくことが重要である。 また、ADASの普及においては、マーケットの存在が欠かせない。幸いなことに、ADASについては既に一定のマーケットが構築されつつあり、加速度的にその大きさが広がりつつある。これからの自動運転技術の普及も相まって当該分野は大きく発展していくものと推察されるが、他方で、ADASが搭載されるのは、新たに販売される車両に限定される。すべての車両が更新されるまでには相当の時間を要することが予想され、この点において既存のADAS非搭載車両に対する後付けADASの市場構築について検討を進めることも重要な要素である。その際、性能担保の観点から、後付ADASにおいても適切な評価機関を設置し、市場に投入される製品の監視・検査を十分に実施できる仕組みの必要性は高い。 また、ADASは高齢運転者に対して、その効果が特に期待できることはこれまでの整理から明らかとなっている。特にこれから爆発的に増加していく高齢運転者に対しては、当事者の運転能力を勘案しながら安全・安心な走行を担保する上でもこのような機能が搭載された車両のみに限定して運転を認めるような制度の検討・普及も重要となってくる。

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