高齢運転者の増加を考慮した安全・安心なモビリティ実現を目指した研究
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75 6.ADASの可能性と限界に関する分析 上述の分析結果を基に、既存のADASが高齢運転者の認知・身体機能の低下のどの部分を補完しうるかを整理することで交通事故リスクを減少させる可能性を評価するとともに、既存のADASで補完できないと想定される限界を整理する。 6-1.心身機能低下に対する既存のADASによる補完可能性と限界 図6-1のような主な既存のADASが、どのように高齢運転者の心身機能の低下を補完し、生じる交通事故リスクを減少させるのだろうか。表6-1は、これまで整理してきた高齢運転者の心身機能の低下と生じる運転時の交通事故リスクの関係性を整理すると共に、それぞれのリスクに対して、ADASによる補完が可能か否かを整理したものである。直接的に能力を補完できるものとしては、ワーキングメモリの低下を起因とするハザード知覚の低下、特に顕在的ハザード知覚の低下、柔軟性・平衡性・瞬発力の低下を起因とするアクセル/ブレーキの踏み違いが考えられる。それぞれに該当するADASとして、自動ブレーキとペダル踏み間違い加速制御装置がある。また、無信号交差点での一時停止標識見落としなど、直接的に能力低下を補完するまではいかなくとも、間接的に交通事故リスクを軽減できるものも散見される。これらはあくまで間接的なものであることから、将来的に当該リスクに対処可能な機能が開発されていくことが望ましい。 他方、潜在的ハザード知覚の低下に対しては、既存のADASでは対処できないものと想定される。これは、そもそもADASは検知対象があることが前提に機能を提供しているものであり、潜在的ハザードのような検知対象が潜在している状況を想定していないためである。このような点に関しては、潜在的ハザードを予測できるアルゴリズムの開発などが期待されるといえよう。

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