高齢運転者の増加を考慮した安全・安心なモビリティ実現を目指した研究
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12 らす。このことが、例えば標識や信号等の見落としといったエラーを生じさせていると考えることができるだろう。また、ワーキングメモリといった交差点通過時など同時並行的に多様な処理を必要とするときに求められる能力の低下は、判断プロセスにおける誤判断、判断不足といった課題をもたらす。このことが特に潜在ハザードの知覚低下といった問題を生じさせていると考えることができるといえる。さらに、柔軟性・平衡性・瞬発力といった運動能力の低下は、操作プロセスにおける適切な運転動作に課題をもたらす。老化において知能や情報処理の能力は大きく低下していない中で、危険事象などの課題に対して正しく判断したとしても、操作段階で運動能力の低下により想像しているように体が動かず、アクセル/ブレーキの誤反応といった問題を生じさせていると考えることができるだろう。 このように老化による心身機能の低下は、認知、判断、操作といったそれぞれの段階における運転能力の低下と極めて密接に関連しているといえる。このような課題に適切に対応できていないことが、現在の高齢運転者を起因とする交通事故の現状を作り上げているのだろう。 2-3.高齢運転者の交通事故傾向の整理 上述のように、老化による多様な心身機能の低下が、高齢運転者の運転能力に重大な支障を与えていることがわかった。では、このような運転能力の低下が、どのような交通事故を生じさせているのだろうか。ここでは、高齢運転者の多様な条件下での交通事故の傾向について、既往研究の整理等を通じて考察する。 2-3-1.方法 ここでは、前節同様に、特に年齢別の交通事故の変化を捉えた文献を参照し、若年(20歳代)、中年(30~64歳)、前期高齢(65~74歳)、後期高齢(75~89歳)、超高齢(90歳以上)の5分類による傾向をまとめる。ここで、各表に示される値は、特に断らない限り中年を基準(1.0)とした場合の比とする。 2-3-2.結果 表2-5に年齢別交通事故傾向の変化について示す。まず、全般的な事故の傾向についてみる。事故のいずれかの当事者となった関与する事故(人口当たり)においては、高齢になるに従い、死亡者が多くなる傾向がある一方で、負傷者は少なくなる傾向がみられる。ただし、過失の最も大きい第一当事者となる事故(免許保有者当たり)でみると、死亡事故も負傷事故も変わらず高齢になるに従いやや多くなる傾向がみられる。これらの傾向は、さらに移動時間当たりや距離当たりで基準化するとより強く表出する。すなわち、高齢者は事故そのものに巻き込まれる数は少ないものの、ひとたび事故に遭うと、死亡事故にな

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