高齢運転者の増加を考慮した安全・安心なモビリティ実現を目指した研究
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11 している。老化により一時停止標識の見落とし等の認知エラーとともに、ハザード知覚、特に危険の存在が明確でない潜在的ハザード知覚の低下、ブレーキの誤操作等の判断、操作エラーも増加していることがわかる。他方で、運転にかかる自己評価は、老化とともにやや上昇している。老化により運転能力が低下することが明白である一方で、その判断ができなくなるのも老化の特徴である。 表 2-4 老化による運転能力の変化 ※中年を基準としたときの比。基準値より上回る場合は赤色、下回る場合は青色で表現し、基準値から離れるほど色を濃く表現している [1]ハザード知覚 顕在的ハザード:危険性が高く、回避的な対処が必要な対象 (例)前を走る車が急ブレーキをかけた 行動予測ハザード:今は危険でないが今後の行動次第で危険が顕在化する可能性がある対象 (例)左前方を走る自転車 潜在的ハザード:現在、視界の外にあるが、危険を伴う対象が死角に存在している可能性がある場所や地点 (例)信号交差点を右折する際に、停止している対向直進車の陰から走ってくるかもしれない二輪車 2-2-3.まとめ 老化により、聴覚、運動能力といった身体機能が特に低下し、その結果反応時間などの運転において極めて重要な役割を担う能力が弱くなる。心(脳)機能においてはワーキングメモリ等の同時並行的な情報処理が必要とされる環境下で求められる能力の低下が顕著に見られる一方で、情報処理や知能といった基本的な脳機能はさほど低下をしない。運転を「認知」、「判断」、「操作」のプロセスでみた場合、これらの一連の傾向は、次のように解釈することができる。 聴覚や視野といった能力の低下は、認知プロセスにおける適切な情報収集に課題をもた若年中年前期高齢後期高齢超高齢20歳代30~64歳65~74歳75~89歳90歳以上信号交差点右左折・信号見落とし割合-1.0∞--信号交差点直進・信号見落とし割合-1.01.0--無信号交差点・一時停止標識見落とし割合-1.05.7--顕在的ハザード得点-1.00.80.8-行動予測ハザード得点-1.00.60.5-潜在的ハザード得点-1.00.20.2-自己評価-1.01.21.1-指導員評価-1.00.70.7-アクセル緩和誤反応数(遠方横断者への反応)--1.01.7-ブレーキ誤反応数(近傍横断者への反応)--1.05.2-全日本交通安全協会(1998)高齢運転者の運転適性の自己診断法に関する調査研究報告書・中年では見落とし者がいなかった・前期高齢は65歳以上含む信号・標識の見落としハザード知覚[1]操作蓮花一己,石橋富和,尾入正哲,太田博雄,恒成茂行,向井希宏(2003)高齢ドライバーの運転パフォーマンスとハザード知覚,応用心理学研究,29(1),1-16・後期高齢は90歳以上含む・中年は28~54歳蓮花一己(2005)高齢ドライバーのリスク知覚とリスクテイキング行動の実証的研究,平成14年度~16年度科学研究費補助金(基盤研究B)研究成果報告書内容項目出典備考種類認知判断・後期高齢は90歳以上含む・中年は28~54歳運転にかかる評価誤反応自動車安全運転センター(2014)高齢運転者に関する調査研究(Ⅲ)報告書・前期高齢を1とした場合の値

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