自動運転普及がもたらす都市交通への影響調査
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87表 7-1 功利主義における衝突の例 分配的正義をめぐる衝突共産主義社会における生産物の分配の考え方の衝突。①一番欠乏している人に多くを分配すべき②より多くを生産した人に多くを分配すべきか平等的正義をめぐる衝突①全力を尽くすものは、その能力によらず同等の報酬を受けるべき。才能あるものは称賛を受け声望を得、内心の満足を得ているから②社会はより有能な労働者からより多くを受け取るべき。社会はこの労役に対してより多くの報酬を支払ってしかるべき課税の正義をめぐる衝突①税は動産に比例すべき②累進課税こそ正義であり、余裕のあるものからより多くを取り上げるべき③財力を全然無視して誰からも同じ額を取るべき ミルは、これらの衝突は功利主義で解決できると解いている。しかし、私たちが暮らす現代社会ではそれぞれの問題について白黒つけるのではなく、様々な考え方を取り入れて調和を図る形で成立している。例えば、課税の正義をめぐる衝突については、所得税のように累進課税される税や消費税のように消費金額に応じて一律に徴収される税もある。人の生命が関わる問題に対してこのような調停が可能かどうかは議論が必要であろうが、ひとつの考え方にはなるのではなかろうか。 ただし、様々な考え方を取り入れるにしても、何らかの原則が必要であろう。次節では、その際の原則についていくつかの例を紹介する。 7-1-2.ロボットやAIネットワーク開発の原則 自動走行の倫理的な問題を考える際の原則の一例として、アシモフのロボット3原則や国が検討しているAIネットワークシステム研究開発の8原則について紹介する。 (1)アシモフの「ロボット工学の三原則」 アイザック・アシモフが1963年に著した邦題「われはロボット」という小説に登場する原則である。その内容は次の通りである84)。 • 第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。 • 第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。 • 第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。 84) アイザック・アシモフ,小尾芙佐訳:われはロボット[決定版],早川書房(ハヤカワ文庫),2004.

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