道路交通環境下における知的障がい者の交通コミュニケーション能力の把握とその応用
68/93

66 3-4-6. アンケート分析結果と実証実験結果の対比 前章アンケート分析により明らかとなった道路交通環境下での課題及び介助の教育方針についての主成分と実証実験結果とを対比させ、本実験から得られた知的障がい者の交通行動について考察する。分析結果および実験結果の一覧を表 3-32に示す。なお、アンケート分析結果の基準に用いている数値は各主成分の標準偏差であり、平均値(0)から標準偏差以上プラス側に離れているもしくはマイナス側に離れている場合を高い、もしくは低いとし、それ以外を普通とした。 以下、分析結果と実験結果との対比により明らかになった特徴を次に整理する。 • アンケート分析結果と実証実験結果(能動的意思疎通能力の高さ・総合教育量・外出促進と「対人」、突発的変化への対応能力と「対物」)を比較して、被験者D・E・G・H・Iは、概ねアンケート分析結果の傾向が歩行状況にみられた。 • 突発的変化への対応能力が低い被験者Aと被験者Iは、対物とのコミュニケーション時に停止がなく歩行でき、同じく突発的変化への対応能力が低い被験者Cと被験者Hは対物とのコミュニケーションで停止した。4名とも自閉症を併発しているが、日常生活の社会性に違いがみられた。停止せず歩行することができた被験者AとHは、「事態の対応には対応できないが、社会のきまりに従って行動でき」、停止してしまった被験者CとHは「充分ではないが指示された体操やボール蹴りなどの集団行動ができる」にとどまっている。すなわち、社会のきまりに従って行動できる知的障がい者は、その対応能力から、突発的変化に対応できる能力を有している傾向が示唆される。 • アンケート分析結果が似通った傾向にある被験者Bと被験者Eをみると、対人と対物で実験結果に違いがみられる。両名ともB判定であるが、良い結果(対人で停止、対物で停止せずに歩行)の被験者Eは合併症がなく、対人・対物で悪い結果となった被験者Bはダウン症及びその他の染色帯異常を併発している。アンケート結果の詳細分析において、ダウン症を併発している被験者の総合力や能動的意思疎通能力等の低さが明らかになっていることから、合併症の影響が交通コミュニケーションの結果に表れていることが示唆される。

元のページ  ../index.html#68

このブックを見る