道路交通環境下における知的障がい者の交通コミュニケーション能力の把握とその応用
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1 1.はじめに 1-1.研究の背景と目的 高齢者、障がい者等の自立した日常生活及び社会生活を確保することを目的とした「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(通称バリアフリー新法)」が平成18年に施行されて以降、身体障がいに限らない障がい者の移動のための社会基盤のあり方が問われるようになりつつある。表 1-1には平成23年度障害者白書よりわが国で比較的外出機会が多いと想定される在宅の障がい者数を示しているが、障がいの細分類別にみれば身体障がいである肢体不自由、内部障がいに次いで多いのが知的障がい者であることがわかる。本研究では知的障がい者に着眼しているが、これは、このような社会情勢等により今後、身体障がい者に対応するメニューを中心に整備された社会基盤整備の推進と同様に、知的障がい者の円滑な移動のために、どのような整備や支援体制を整えていけばよいかについて、科学的な知見を元にした具体的な方針を示していくことの重要性が高くなると考えられるためである。 知的障がい者にとってどのような社会基盤整備・支援が必要になってくるのかを把握するためには、まずは知的障がい者がどのような手段で、どこへ、どの程度移動しているのかといった「交通行動特性」について適切に把握し、それに基づく政策展開を行っていくことが求められる。知的障がい者の行動や活動に関する国内の研究に着目すると、鈴木ら1)が、知的障がい者の外出行動の基本的要件として「移動」に着目し、知的障がい者の外出行動の実態把握とこれを阻害する要因分析を行い、環境整備のための課題を明らかにしている。しかしその他の研究の多くは住居内での行動特性に関するものが中心例えば2)~5)であり、特に外出によって知的障がい者が実際に交通環境下に置かれた場合にどのような基盤整備が必要となってくるのかに着目した研究は多いとはいえない。 この状況を踏まえて、筆者らは、これまで知的障がい者の交通行動特性に関するいくつかの研究を実施してきた6)7)。その結果、知的障がい者は他の身体障がい者に比べて通勤・通学、福祉施設への通所等をはじめとする日常的に外出頻度の多い目的が多いこと、その際の移動手段は徒歩や自転車が多いこと、バスや鉄道等の公共交通機関の利用割合も比較的高いこと、移動時の介助の必要性に関わらず1週間の外出日数や活動時間に差が現れないことなど、身体障がい者と比べても、さらには移動介助の必要性に関わらず活発に外出を伴う活動をしていることを明らかにしている。このように公共交通機関へのアクセスも含め知的障がい者は徒歩や自転車によって外出することが多い一方で、申請者が昨年度(平成23年度)、知的障がい者の具体的な交通環境下の課題を探るべく複数人の知的障がい者本人および介助者に対してヒアリング調査を実施した結果9)では、歩道上においては対人、対自転車、車道上では対車両に対して知的障がい者自らは回避行動を取れない場合があるという指摘をいくつか受けている。これは表 1-2に整理されるように、知的障がい者の特徴である適応力、判断力の弱さと同時にコミュニケーション能力の低さが大きく起因しているものと考えられ、道路交通環境下で安全性の面から深刻な課題を生じさせている可能性があることが示唆される。よって、本研究では、『自身もしくは他者の交通目的を安全かつ快適に達成するために、交通空間における対象の挙動を予測もしくは確認し、それに基づく対応行動を行うこと』を交通コミュニケーションと定義し、この道路交通環境下での交通コミュニケーションについて、その実態を明らかにすることは、特に知的障がい者の安全、安心な移動を支えるという視点から、今後の社会基盤整備に重要な示唆を与えるものと考えた。
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