面的速度マネジメントの実現に関する総合研究
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792.ISA普及に向けた効果検証 2-1 はじめに 平成24年の交通死亡事故死者数は4,411人と12年連続で減少傾向にある一方で,高齢者の占める割合,居住空間に近い狭隘道路である生活道路での占める割合が高まっている。平成23年3月に作成された第9次交通安全基本計画の中でも重視すべき対策の視点として掲げられているなど今後,高齢者・生活道路をキーワードとした安全対策の重要性は極めて高い。高齢者は身体機能の低下等による交通事故時の致死率の高さが知られており,まずは被害をいかに軽減するかという視点に注目する必要がある。 交通事故の被害程度は衝突時の車両の走行速度が大きく関係している。特にわが国で広域に広がる生活道路は自動車,歩行者,自転車が共存する空間であることが多く,自動車側に安全な速度を促すためハンプや狭さくなどの物理デバイスが整備されることがある。しかしこのようなデバイスは,特にわが国では騒音・振動の発生を懸念する住民側の意向から設置箇所が制約されることも多い。一方で近年,特定地域において車両側から適正な速度に制御するISA(Intelligent Speed Adaptation)などの技術開発が欧州を中心に進展している。わが国でも平成22年3月9日に開催された内閣府の最高速度違反による交通事故対策検討会の中で「ISAは最高速度を遵守させるための対策として広く効果が見込まれる」と報告しており,導入の可否について検討の必要性に言及している。物理デバイスのような騒音・振動による住民側からの制約が想定されないISAは,広く運転者に受け入れられるとともに,その効果の検証が適切に行われれば,わが国の生活道路における走行速度規制の実効性を担保する革新的対策になるものと考えられる。 いずれのISAについても,わが国ではまだ導入に向けた本格的な議論が行われているとはいえない。わが国への導入を考慮するならば,まずはわが国の運転者への効果に関する様々な研究蓄積を積み上げ,実現に向けた課題を明確化し,その解決を図っていくことが重要である。 以上より本研究では生活道路においてISAのような車両側からの速度制御アプローチが高齢運転者に与える効果についてドライビングシミュレータを用いることで把握し,我が国における対策導入・推進にあたっての基礎的知見を得ることを目的としている。

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