面的速度マネジメントの導入効果に関する研究
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60 3.ドライビングシミュレータを用いたISA(Intelligent Speed Adaptation)実験 3-1.はじめに 平成22年の交通死亡事故死者数は4,863人で10年連続で減少傾向にある一方で、居住空間に近い狭隘道路である生活道路での占める割合が高まっている。交通事故の被害程度は衝突時の車両の走行速度が大きく関係している。特に生活道路は自動車、歩行者、自転車が共存する空間であることが多く、自動車側に安全な速度を促すためハンプや狭さくなどの物理デバイスが整備されることがある。しかしこのようなデバイスは、特にわが国では騒音・振動の発生を懸念する住民側の意向から設置箇所が制約されることも多い。一方で近年、特定地域において車両側から適正な速度に制御するISA(Intelligent Speed Adaptation)などの技術開発が欧州を中心に進展している。物理デバイスのような騒音・振動による住民側からの制約が想定されないISA技術は、近い将来、広く運転者に受け入れられれば面的速度マネジメントの実効性を担保する革新的対策になるものと考える。ここでは生活道路において車両側からの速度制御アプローチが運転者に与える影響をドライビングシミュレータを用いることで把握し、対策導入・推進にあたっての基礎的知見を得ることを目的としている。 3-2.実験方法 実験条件の統制・柔軟性に優れるドライビングシミュレータ(以下DSとする)を用いて、【通常時の走行】とISAが作動している状況である【ISA介入時の走行】および【受動的速度制御を体験した後の通常走行】の運転挙動を捉える。使用したDSは三菱プレシジョン社製D3simである(図3-2-1)。調査は運転挙動の違いや今後の社会情勢を考慮し【非高齢運転者層(18~64歳)】と【高齢運転者層(65歳~)】で実施する。また、被験者に対してDS走行後に空間認知(標識などの交通情報の獲得状況)、ISA介入による走行意識(運転時の安全意識、安心感、走行しやすさ等)などの調査を行うこととした。 次にISAの介入方法であるが、ISAには、車両が強制的に速度を制御するもの(Mandatory mode)と情報提供等により運転者自ら速度を制御するもの(Voluntary mode)の2つがあるとされる。海外の諸研究をみてもMandatory modeの効果が優れていることは明らかなものの、わが国におけるISAの普及を想定するならば、まずはVoluntary modeによる社会的受容を得てから、Mandatory modeへ移行していくことが一般的であろうと考えられる。Voluntary modeであれば、わが国で3台に1台は普及しているとされるカーナビゲーションへの付与も比較的容易であろうし、近年爆発的に普及するスマートフォン、PDA端末での対応も容易であると想定できる。 よって、ここでは、Voluntary modeでの介入で実施することとした。介入のパターンとしては、カーナビゲーション等への応用を想定し、音声介入、映像介入の2パターンを用意した。音声介入は女性の声による「30km/h規制です。」など規制速度に応じた音声データの再生(約3秒程度)を行った。映像介入は、本来ならばカーナビゲーション等別ウインドウで実施することが望ましいが、今回は簡便に効果を把握するため、図3-2-2に示す画像を画面上に提示した。提示時間は被験者の情報認知にかかる時間等を考慮し3秒間とした。提示位置は、被験者の走行時の視界を遮らず、かつ提示情報が比較的容易に判断しやすい中央スクリーンのサイドミラーの右横にて行

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