報告書 地方都市における企業TDMMMに関する研究
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- 28 - 易ではないと考えられる。 しかしながら、既に我が国においても通勤手当の見直しを実施した事例や、それに向けた調査が実施された事例が存在する。以降では、それらについて整理する。 b)マイカー通勤削減を目的とした通勤手当の見直し事例7) 松村7)は、TDM施策として通勤手当制度に着目し、通勤手当制度の変更事例から制度普及に当たっての今後の知見を示している。 道路混雑をはじめとする自動車交通問題の原因のひとつは、私的費用と社会的費用の乖離にあるとし、それが環境負荷の大きい自動車の利用者に追加負担を求める根拠としている。その方法として、ロードプライシングを取り上げ、初期投資が多いことや合意形成に時間を要することを問題としている。一方、通勤手当の場合は、その導入には支給基準の改定で対応可能なことや、意思決定主体が企業である事の利点を挙げている。しかしながら、企業においても労働組合等との合意形成が必要であり、合意形成の麺では必ずしも利点だけではないと考えられる。 通勤手当制度の変更事例として、名古屋市の通勤手当支給基準の改定を挙げている。2001年3月より、短距離での自転車通勤を奨励するため、それまで同額であった5km未満の自転車利用者と自動車利用者の手当(月額2,000円)を、自転車は同4,000円に、自動車は同1,000円に減額した。名古屋市の事例では組合などからも目立った反対は出ていないとのことである。導入の結果、5km未満の自動車通勤者が1,453人から747人に減少するという成果が得られている。 その成功要因のひとつとして、「アメとムチ」をパッケージで行なったことが挙げられている。アメとムチをパッケージ化することで、従業員にとっても企業にとっても負担だけを強いられる状況を回避することができると考えられ、有効な方策であると考えられる。 c)企業の有料道路料金負担に着目した通勤手当の見直し事例8) 吉村、亀野8)は、近年盛んに行われている有料道路の料金の弾力的な運用に着目し、大分都市圏の企業を対象として、企業がどの程度有料道路料金負担の柔軟性を持っているか、また、その他のTDM施策を含めた通勤問題に対する取り組み実施実態・意向を明らかにしている。 大分都市圏の企業は通勤手当として約9割の企業が通勤費用を支給しており、有料道路の料金負担についても13%が支給している。また、具体的なTDM施策に取り組みたいとする企業は、有料道路の料金負担も行う意向を持っている。従って、料金政策を含む交通計画では、料金政策を単独の施策として考えるだけでなく、TDM施策のパッケージのひとつとして捉え、総合的に実施していくべきとしている。 b)の松村の指摘と同様に、アメとムチといったTDM施策の総合的なパッケージングの重要性を指摘していると言える。 (4)まとめ ここでは既往の文献をもとに、我が国の通勤手当の実態について概観するとともに、通勤手当の廃止に関する実証的研究成果や、通勤手当に着目した企業でのTDMやMMの展開に関する研究成果を概観した。 我が国においては、アメリカのCCLIのように自動車以外の通勤方法に転換するための法制度整備を行うことは容易ではないと考えられるが、しかしながら、そうした法制度がない状況においても、通勤

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