報告書 交通イノベーション・産業イノベーションの実現化に向けての基礎調査
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第Ⅲ編 パーソナルモビリティに対する市民の意識に関する調査 第5章 見学者アンケート結果を用いたPMVの評価への影響要因分析 93第5章 見学者アンケート結果を用いたPMVの評価への影響要因分析 5-1 はじめに パーソナルモビリティ(Personal Mobility Vehicle、以下、PMV)は、高齢者等の移動手段確保、安全な道路交通社会の実現、市街地活性化、地球温暖化やエネルギー不足への対応といった交通社会が抱える諸課題の解決に貢献する可能性があると考えられる。その導入に向け、愛知県豊田市1)や茨城県つくば市2)において、PMV導入に向けた実証実験の取り組みが進められている。 一方、PMVの導入には法制度やインフラ整備と併せて、PMVの利用主体となる市民のPMVに対するニーズを把握するとともに、同時に都市内の空間においてPMVと共存する主体となる市民のPMVに対する理解を深めることが必要である3)。しかし、市民のPMVに対する関心は高い水準にあるとは言えず、PMVに対するニーズ等の市民の意識は十分には把握されているとはいえないのが実情である。 また、PMVの導入のためには市民の合意を得ることが不可欠であると考えられる。市民の理解を得るためには、実証実験を通じたPMVを導入する上での課題の検証を行うだけでなく、PMVがどのようなもので、どのように役立つのか等の情報を発信することが必要である。 市民に対する情報発信を効果的に行なっていく上では、市民がどの程度PMVを認知しており、どのようなニーズを持っているかを把握し、加えて、PMVに対する評価に影響する要因を明らかにし、そうした情報を踏まえておくことが重要であると考えられる。 本研究では、2010年10月に愛知県豊田市で実施したPMVの試乗イベント会場において、実際にPMVを見学した方を対象に、立ち乗り型PMV(立った姿勢で乗車する自動的にバランスを取る二輪のPMV。例えば、トヨタ自動車(株)のWinglet。以下、立ち乗り型とする。)と座乗型PMV(座った姿勢で乗車する三輪等のPMV。例えば、トヨタ自動車(株)のi-REAL。以下、座乗型とする。)に関する意識調査を実施した。その結果を用いて、PMVに関する情報を周知したうえで市民のPMVに対する意識を把握するとともに、PMVの評価に影響する要因を明らかにすることを目的とする。 5-2 既往研究のレビューと本研究の位置づけ これまで、PMVに関する研究としては、PMVそのものの開発について機械工学、自動車工学的な観点から取り組んでいるものが多く存在する例えば4)5)6)。 市民の意見を調査した研究としては、アンケートデータ等に基づき、PMVの将来需要予測やPMVに求められる性能について分析を行なった研究7)8)が存在する。また、PMVを対象としたものではないが、既存の交通手段に代わる、特に高齢者を対象とした新たな移動手段を意識した研究が行われている。例えば、35道府県が参加する知事連合が検討を進めている高齢者にやさしい自動車9)や、超高齢化を迎える都市に要求される移動の質に関する研究10)がなされており、成果が上げられている。ただ、本研究で取り上げるPMVは、高齢の利用者を対象としたものではなく、幅広い年齢層を対象としたものである。 李ら11)は、立ち乗り型の受容性における意識構造について、「まちなかでの利用」「建物内での利用」「車体」の3つの態度に分けられることを明らかにしている。しかしながら、PMVに対する評価と個人属性との関係については明らかにされていない。 本研究は、市民のPMVに対する評価やそれに影響する要因を明らかにするものである。PMVに対する評価は、性別や年齢、認知度といった個人属性、および、実際に運転できそうかどうか、あるいは、李ら11)が指摘している「まちなかでの利用」「建物内での利用」「車体」に対する態度によって影響を受けるものと考えられる。そこで、立ち乗り型と座乗型のそれぞれのPMVについて、PMVの認知度やPMVに対する意識を把握するとともに、PMVを利用したいと思う利用場面について分析を行う。その上で、PMVに対する評価に影響する要因について、個人属性や李ら11)が提案するPMVの受容性における意識構造に関係する3つの態度との関係について、数量化理論Ⅰ類を用いて分析を行う。なお、ここで言う
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