報告書 現行法制度下における地域公共交通確保施策のあり方に関する研究
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1. はじめに ( 1 ) 背景と目的 地域公共交通サービスを確保するために,自治体が主体的にその運営に関与することは,もはや地域公共交通政策において常識となっている.自治体や住民,運行事業者などの地域に関わる組織が主導的役割を果たす仕組みは,2006年の改正道路運送法,2007年の地域公共交通活性化再生法により整備が進められてきた.さらに2011年度には「地域公共交通確保維持改善事業(生活交通サバイバル戦略)」という新たな枠組みが取り入れられるなど,国による法制度の変革は急速に展開されている. 一方,2009年より検討が重ねられてきた交通基本法案は,移動権の保障は明文化されぬ形で2011年3月に閣議決定された.しかしながら,地域公共交通サービスを持続可能なものとしていくためには,自治体がその拠となる交通基本計画の策定は,なおも不可避であろう. 現在,多くの自治体では主に乗合バスという運行形式によって地域の生活交通を確保しているが,自治体は国が整えた法制度を有効に活用し地域公共交通サービス確保を行っているのだろうか.地域住民はどのように参画しているのか,公共交通会議では実質の議論がなされているのか,など,自治体の地域公共交通検討の現状を把握することは,今後の地域公共交通サービス確保において有効な基礎資料となると考えた. そこで本研究では,全国の自治体を対象としたアンケート調査を実施し,2010年度時点での法制度下で自治体が展開する地域公共交通サービス確保の検討の実態を概観しながら課題を整理し,そのあり方を探ることとした.本報告書では,まずアンケート調査の集計結果を報告する. ( 2 ) 既往研究と本調査実施の経緯 バスを主とした地域公共交通に関する自治体への調査を,筆者らは定期的に実施している.まず,2006年度に全国の自治体を対象に,自治体が運営に関与するバスに関する実態調査をWebサイトへの入力形式で実施し,コミュニティバス等の運行実態を把握するとともに,地域公共交通に対する自治体の考え方を整理した 1) . 2007年度には愛知県内の自治体を対象に,コミュニティバス運行評価のためのモニタリングの実態と考え方に関する調査を実施 2) し,さらに2008年度にこれを全国自治体に拡張した調査を行い,運営におけるPDCAへの意識や運行内容見直しの実態を把握した3) . 一方,高山らは2009年度に「自治体における地域公共交通確保の検討状況」についてのアンケート調査を,全国自治体を対象に実施し,その実態を把握するとともに過疎地域あるいは市町村合併有無といった地域特性に着目し,地域公共交通活性化・再生総合事業の実施実態に関する分析を行っている 4) . 今回,筆者らが実施した調査は,前節で述べたように,①「2010年度時点の法制度下に 1

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