報告書 サービス享受度からみた住民の地域公共交通の評価構造に関する研究~個人の背景との比較を通じて~
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22.既往研究 これまで、住民側の視点に立った公共交通評価については、バス交通を中心に様々な観点から研究成果が報告されている。例えば、渡戸ら1)は環境変化以前・以後の2時点アンケートを基にした生活行動・満足度の変化に関する分析を行ない、それに基づいた行動目的別の生活行動モデル、満足度変化の構造モデルを構築することで、目的の異なる行動の相互関係や行動と満足度の関係を考慮することで総合的な地域交通計画の評価を試みている。磯部2)は愛知県日進市を事例として取り上げ、当市のコミュニティバス事業を利用者の立場から詳細に評価した結果について考察しており、運行日数の評価が最も低く、続いて便数、ルート、時間の順で評価が低くなっていること、運行自体には満足していること、バスの必要性が高い人ほど厳しい評価を下すことなどを示している。樋口ら3)はコミュニティバスのサービス水準が将来の存続を左右しかねない点に着目し、利用率に差のある路線を抽出し、沿道住民の利用に関する満足度と重視度の分析から総合満足度を規定するサービス水準の決定要因を明示し、さらに総合満足度を規定する3つのサービス水準(ルート長、運行間隔、始終発時刻)について詳細な分析を実施している。古川ら4)は、利用、非利用者の立場からみたバスサービスに対する評価や居住地の生活基盤サービスレベル、ソーシャル・キャピタル等の総合的視点から住民のバスに乗って支える意識の高揚に与える影響要因を考察している。長洲ら5)は交通施策実施において市民を交えた協働の重要性を指摘し、大都市周辺部のような公共交通の崩壊がまだ顕著でない地域を対象とした市民の交通実態と公共交通に対する意識を把握している。鈴木ら6)は、高齢者の視点に着目し、コミュニティバスの利用者意識特性、地球環境問題への関心とバス利用意識の関係性、さらにバスサービスを改善した際の効果指標モデルの構築を試みている。また、市民意識調査を用いた地域公共交通の評価を試みている研究7)もみられる。 このように、多くの研究が蓄積されており、それらいずれも有意義な成果を示している。一方でこれらはこれまで利用者、非利用者、沿道住民などを対象とした研究であり、住民の家族構成などの個人の背景やサービスへの到達などのサービス享受度まで考慮しているものではない。 以上、本研究のような個人の背景とサービス享受度の双方の視点から公共交通の評価構造を捉えようとする視点はこれまでほとんど試みられていないといえる。

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