まちと交通 2004年3月 9号
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主任研究員 山﨑 基浩都市交通施策展開における社会的要因の影響について― 豊田市「ザウルス」~「中心市街地玄関口バス」への施策展開 ―研究員レポート7 TTRI Letter №91.はじめに 今日、地方都市において展開されるさまざまな都市交通施策のうち、地方自治体が公共輸送サービスに直接あるいは間接的に運営に関わる、いわゆるコミュニティバス運行施策が多くの地方自治体で実施されている。その背景として、平成14年2月に施行されたバス運行事業における需給調整規制の廃止(以下、規制緩和)がある。これにより、利潤追求を目的とするべき民間事業者が不採算路線からの撤退を実施し、公共輸送サービスが空白化した地域へのサービス提供において地方自治体の積極的な関与が余儀なくされている。一方、高齢化社会の進展とともに都市内移動の利便性向上の必要性が高まる中、行政が公共輸送サービスに関わる動機としても、この規制緩和は大きく影響していると考えられる。 本稿では、このような規制緩和に端を発する社会動向を、地方自治体における都市交通施策の展開に影響を及ぼす「社会的要因」として位置づけることとした。そのような要因が施策展開に与えた影響は多大なものであり、具体的な事例により分析することは、行政施策としての今後の公共輸送サービスのあり方を探る上で重要であると考える。そこで、愛知県豊田市が運行している、「中心市街地玄関口バス」(以下、玄関口バス)を事例として、その施策展開を整理しながら社会的要因が及ぼした影響に関する考察を行う。2.中心市街地におけるバス交通施策の経緯 玄関口バスは、中心市街地において移動制約者の移動を支援し、公共施設等へのアクセスの利便性を向上させること、さらに、それによって中心市街地の人口吸引力を高め、その活性化を図ることを目的として平成14年6月から運行が開始された。その運行サービス内容および利用状況については、前掲「豊田市中心市街地バスを考える(調査研究グループ本田俊介 筆)」にて記述されているので、ここでは省略する。 玄関口バス運行より8年前の平成6年、豊田市の中心市街地では歩行者支援策の実験として、短距離交通実験バス「ザウルス」の運行が行われている。玄関口バスでは、運行ルート、時間帯、料金、運行便数などの運行サービス内容は、この「ザウルス」の運行データおよび利用者意見等を参考に設定された。しかしこの8年間、中心市街地でのバス運行事業化の検討は継続されておらず、規制緩和という社会的要因によって急速に実現化が可能となったものであると考えられる。 また、ザウルス実験より15年前の昭和54年から昭和63年までの10年間、中心市街地において公共施設巡回バスResearcher's reportの運行が行われた経緯がある。同バスは、利用者の減少などから廃止に至ったが、「ザウルス」では巡回バスの問題点を踏まえた上で、運行実験が行われ、多数の利用者を確保することに成功している。3.ザウルスから玄関口バスへの施策展開(1) 短距離交通実験バス運行の概要と実験結果短距離交通実験バス「ザウルス」は、平成6年10月15日~11月13日の30日間、豊田市の中心市街地において社会実験として運行が実施された。料金は無料、車両は恐竜のイラストがデザインされたマイクロバスを4台使用している。図-1に示すように、路線はイベント対応の2路線(路線1,3)と、日常的な利用を見込んだ1路線(路線2)の計3路線で運行された。図-1 ザウルス路線図 この3路線のうち、日常的な利用を見込んだ「路線2」は、玄関口バスの前身として位置づけることができる。その運行結果の概要を表-1に示すが、運行頻度が玄関口バスの倍以上であったにもかかわらず、1便あたりの利用者数は同程度であった。これはイベント参加者の交通手段として利用される機会があったためである。表-1 実験バスの運行結果(ザウルス路線2) 路線2

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