まちと交通 2004年3月 9号
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寄稿TTRI Letter №9 45. ITSサービスの展望 ITSは、交通に限定することなく、都市施設情報と組み合わせたサービスを展開することによって、都市生活に大きな影響を与える可能性がある。この可能性に積極的に取り組むために、すでに現れている生活の変化に着目し、続いて、新しいITSサービスを考える。 第一に、携帯電話による待ち合わせ行動の変化と都市施設に関する予約システムの拡大傾向に着目し、「ITS技術を活用した待ち合わせ支援サービス」を提案する。典型的なサービス対象は、病院の診察に伴う待ち合わせであり、予約診療を基本として、混雑している総合病院などが対象となる。利用者は診療時間帯を予約し、前日あるいは診療開始の一定時間前までに、希望診療開始時刻を申告し、病院側で、診療プログラムを決定し、利用者に通知する。利用者と病院は、交通渋滞などによる利用者の遅れや予定診療時間の延長など「待ち合わせ」の変更が必要な場合には、相互連絡をして、適宜可能な範囲で、診療プログラムの変更を行うものとする。このサービスにより、利用者は、待ち時間を減らすとともに、一定時間前までなら、自分の都合に合わせて診療時刻の変更を申し込むことができる。病院側は、診療時間そのものが短縮されるわけではないが、顧客の満足度を改善することかできる。 このような「ITS技術を活用した待ち合わせ支援サービス」は、診療、診断、面談など、特定の専門技術を持つ人が一定の場所にいて、一定のサービス時間の中で、不特定多数の人に、その必要性に応じた時間だけサービスするというもの全般に適用可能であり、発展性は大きい。 第二に、携帯電話などのモバイル技術の発達による双方向通信の量的拡大と速度改善の傾向をベースに、ITSモニターの創設と活用を提案する。すでに、GPS携帯やPHS携帯による人の移動軌跡の自動記録や、関連施設までの経路案内をこれらの携帯に提供する「人ナビ」などが開発されているが、携帯電話の機能は多様である。位置情報と時刻情報を伴ったメイル、写真、通話記録により、さまざまな活動記録データが整備できる。また、デジカメで撮影した写真には、統一的な座標データが付加されており、街なか探検による発見を、検索可能なデータベースに整理することができる。自分の街の魅力を、携帯電話に記録しながら探索するイベントを開催し、それを記録していくことは、街のデータベースとして有効である。おそらく、インターネット自動車の普及に伴い、道路の使い方や景観資源の蓄積は進展すると想定されるが、歩く視線での街の記録の蓄積も、個性ある街の維持と発展のために役立つものとして、推進するべきと考える。 第三に、交通の本質に立ち戻って、いろいろな活動に参加できるかどうか、交通情報提供やデマンド応答型の共同バス運行などのITSサービスが、その改善に貢献すReviewることを具体的に示すべきではないかと考える。この効果は、混雑地域ではなく、むしろ、生活交通の確保が課題となる地域において顕著であり、田舎におけるITSサービスの有用性を示すものになる。ITSサービスを社会的活動への参加可能性と結びつけて評価することによって、その効果に対する市民の理解は深まると考えられる。活動参加可能性の評価は、立地条件の良し悪しを具体的な活動内容と結びつけて評価するものであり、住宅の立地選択の際に考慮されるように育てていきたい指標である。なお、交通サービスなどの不備によって、通院や通学などの活動に参加できない問題は、社会的排除問題と呼ばれる、比較的新しい交通計画課題である。重要な点は、その緩和に役立つITSサービスが数多く存在することである。6. まとめ 地方都市を念頭に、市民に魅力的なITSサービスの開発を進めるためには、ITSの基盤整備とともに、市民ニーズを汲み上げて多様なITSサービスを開発することが重要である。ここでは、交通に限定することなく、都市施設情報と組み合わせたITSサービスを展開することによって、都市生活に大きな影響を与える可能性があるとして、その具体例の幾つかを提案した。 豊田都市交通研究所の位置する豊田市は、わが国のITSをリードするトヨタ自動車のお膝元であり、ITS世界会議のショーケースと位置づけられ、ITS活用の実験地域である。この小論が、豊田地域がITS先進地域となることに役立つことがあれば幸いである。原田 昇 プロフィール Harata Noboru◆現在: 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授◆最終学歴: 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了 工学博士 ◆専門分野 都市交通計画、交通行動分析、 交通システム分析、交通GIS◆研究テーマ 活動・交通分析の開発と普及 都市圏交通計画手法の開発と普及 環境空間計画における評価手法の開発
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