まちと交通 2004年3月 9号
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東京大学大学院 教授 原田 昇市民に魅力的なITSサービスの開発寄稿TTRI Letter №9 21. はじめに ITSは我々の生活を変えている。インターネットが普及し、携帯電話からの情報探索が可能となった今日、必要な情報はすべて手に入る気がする。VICS地域では混雑道路を避けた走行が可能である。気の利いたシステムなら、お店情報も手に入るし、住所がわかれば、ピンポイントで目的地検索し、迷わずに到着できる。大都市では、終電はもとより、早い経路や安い経路も教えてもらえる。登録しておけば、駅を出るときに、周辺施設のイベント情報など、ほしい情報が携帯に通知されてくる。名古屋のITS世界会議は、市民を巻き込んだ会議にして、市民の関心を引こうとしている。 しかし、情報過多の世の中で、市民の関心を引き、その行動変更に影響する交通情報を提供することは、当たり前のことではあるが、容易ではない。情報が提供されていても、自分にとってどのように役に立つのかが分からないので、見てもらえない現実がある。 ここでは、渋滞の激しくない地方都市を念頭に置いて、市民に魅力的なITSサービスをどう開発するかを考える。2. ITSサービスの開発動向 ITSは、Intelligent Transport System、文字通りに訳せば、知的交通システムである。世界標準を目指して、先進諸国が競うように開発を進めており、国家プロジェクトの旗の下、官民の努力が続いており、すでに実用化されたITSサービスも少なくない。 ITSという総称は、技術的には、自動走行システムに代表される自律的な交通システムをイメージさせるものであるが、実際にその活用を考える上では、より広義に、人、物、車両の動きに関する情報を自動的に収集し提供するシステムと理解するほうがよい。従来と同じ交通システムであっても、インテリジェント化によって、時々刻々の状況が理解されると、より効率的な運用管理が可能となり、より満足度の高い利用方法が見出せる。このため、通行規制などの物理的な規制やプライシングなどの経済的規制とは異なり、利用者の移動満足度を損なうことなく、混雑緩和などの社会的便益を達成できる可能性が高い。 具体的に、集配送車両の動的管理システムやVICS情報を取り入れたカーナビなど、この動的情報の収集と提供に着目したサービスは、数多く開発されている。ドイツでは、高速道路におけるパークアンドライドの動的交通情報提供を含む地域的な駐車管理が普及している。アメリカやカナダの高速道路では、混雑状況に応じた木目細かな通行料金の自動徴収が実施され、営業的に成功してReviewいる。ヨーロッパ諸国では、混雑状況や大気汚染状況に合わせて、流入制限と流入料金を変更するロードプライシングの社会実験が進んでいる。ミュンヘン等では、道路情報にマルチモーダル情報や都市施設情報を加えた統一的な情報ベースが整備され、より高度な交通管理を実施している。また、わが国では、プローブカーやインターネット自動車など、移動体通信技術を活用した交通データ収集技術の適用も進められており、エコドライブや安全運転の誘導システムや動的情報の蓄積を活かした高速道路の料金所予約サービスの開発など、さまざまなサービス開発が展開されている。3. ITSサービスの基盤整備 ITSサービスは、個人に犠牲を強いることのない魅力的なツールであり、その基盤整備は、混雑緩和や事故削減などの明確な地域目標を掲げて、推進するべきである。標準化の進展により、サブシステムの互換性が確保され、技術開発の進展とあいまって、個別サービスのコストダウンが見込まれるが、ITSサービスの地域展開には、地域的なITS基盤の整備が必要であり、都市間競争に勝ち残るためにも、この整備に先んじる必要がある。 ITS基盤とは、情報提供機能とコミュニケーション機能を持つ情報インフラを組み込んだ交通基盤である。VICSやETCなどのITSアプリケーションの共通プラットホームとなるスマートウェイをはじめとして、面積や費用の半減が可能なスマートIC、空間の高度利用が可能なITS駅前広場、地下道路へのITS導入、AHS技術を活用したITS交通システムなどが提案され、効果試算が行われている。 地方都市でのITS基盤としては、これらの具体的な施設整備とともに、都市施設情報と組み合わせたITSサービスの展開を念頭に、データ基盤、ソフト、ハードの共通プラットホームを整備することが重要である。この面での先進事例は、MOBINET等のドイツのITS情報基盤システムであり、その開発戦略、情報の安全管理、具体的ITSサービスなど、参考になる点が多い。 また、車両に搭載される情報関連設備の標準化も進められており、車が情報端末となり、車同士が情報交換するスマートビークルネットワークの開発も進められている。ナンバープレートを電子化し、走行中の車両認識を可能にするスマートナンバープレートも含めて、交通基盤や車両に共通する基本的施設の標準化を通して、これらを活用したITSサービスを試みる基盤は着実に整いつつある。
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