まちと交通 2004年3月 9号
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(財)豊田都市交通研究所 所長  太田 勝敏(東洋大学教授・東京大学名誉教授)ITSの交通まちづくり1 TTRI Letter №9 高度道路交通システムITSの2004年世界会議が今年の10月に名古屋で開催されることになり、現在その準備が着々と進められている。開催地で行なわれる恒例のショーケース・テクニカルツアーにはトヨタ自動車本社のある豊田市にも内外の専門家が多数訪れるものと期待されている。第11回にあたる今回の世界会議は、日本の先端的ITS技術を紹介すると共に、「人・クルマ・環境が共存する安全で快適な車社会実現」に向けて市民参加を前面に出した会議が特徴とされている。ITSもいよいよ技術開発中心の段階から、市民や社会への適用の段階になってきたことを示すものと言えよう。 私共、豊田都市交通研究所の主要研究テーマの中でも交通安全、公共交通と並んで3本柱のひとつがITSで、その交通まちづくりへの適用が焦点である。当面は、ITS世界会議と2005年の名古屋万博での適用が大きな課題であるが、豊田市を中心にトヨタ自動車と私共の研究所では地域の特性と課題に合った展開に向けて「豊田ITS戦略プラン・スタート21」で長期的に市民生活への定着を目指す取り組みを始めている。具体的なプロジェクト・メニューは、都心部の利便性向上と活性化を目指す"タウンプロジェクト"、幹線道路の安全で円滑な交通を目指す"国道248プロジェクト"そして"万博関連プロジェクト"の3つの体系にまとめられている。  交通まちづくりの視点から特に重要と考えられるのが、タウンプロジェクトの中の高度な運行管理と情報システムによる利便性の高いバスサービスの提供、障害者・外国人にも安全で快適な移動のための歩行者ITS、荷物を気楽に運びいろんなお店で買物を楽しむことができるショッピングカートの共同利用などである。いずれも中心市街地での短距離の人の移動について自動車だけに頼ることなく、自由に安全に、そして楽しく快適に動きまわれるようIT技術で支援することを狙ったもので、高齢者や移動制約者をはじめ市民、内外からの来訪者に役立つシステムの開発がもとめられている。  これらのITS技術の適用が中心市街地の賑わいづくりと活性化につながるためには、当然のことながら市街地内部回遊のための歩行環境の整備、自宅からの主要な交通手段としての自動車によるアクセスにかかわる道路と駐車場の整備といったハードの施設整備が不可欠である。豊田の現状では、他の地方都市と比べて個別の交通施設の整備は進んでいるものの、ネットワークとしての整備、シームレスな移動環境として整備は不十分である。特に、歩行者や自転車について、駅と主要公共施設、商業施設巻頭言Forewordをはじめ中心市街地における面的な回遊という視点からはハード面の一層の整備が必要であろう。その際、まち並み景観、水と緑、そして文化といった潤いのある豊かな交流空間としての街路と広場、市民が誇りと思えるような公共空間づくりの視点が求められている。  また、市民参加で先端的ITS技術を活かすソフト面での移動支援という点では、今回のショーケースでは含まれていないが、移動制約者に対して電動スクーターを貸し出して商店街の移動を支援するボランティア組織によるタウンモビリティ事業との連携(電動スクーターへの共同利用ショッピングカート技術の適用を含む)も検討すべき課題であろう。 中心市街地の活性化の最大の課題は、受け入れ側施設、商店街、市民の対応であり、郊外ショッピングセンターでは得られない魅力であり、ホスピタリティである。最先端の交通システムもそれらに代わることはできない。地元市民の意欲的取り組みと行政との協働が、ITSショーケースを契機に更に発展していくことを期待したい。  ITS技術の適用として世界的に重視されてきている分野が交通安全である。わが国でも交通事故死者の半減を目標に新たな取り組みが始まっているが、交通事故問題は自動車交通の最重要の社会問題である。 交通事故による社会的費用は欧州諸国では国内総生産GDPの約2.5%にも達するとの推定もあり経済的には、環境、渋滞以上に重要な課題とされている。交通まちづくりとの関連では、居住地周辺で多発する交通事故の削減へのITS技術の適用である。現在、交通静穏化に向けてコミュニティ・ゾーンや安心歩行エリア等の事業など道路デザインの工夫と交通規制による対策が進められているが、これに車両側の警告・速度抑制(スピード・リミッター)技術が連携することで一層の効果が期待できる。北欧を中心にISA(Intelligent Speed Adaptation)技術が高速走行の抑制に向けて開発が進んでいるが、わが国では住宅地のような時速20~30Kmでの適用が重要であり、今後の研究テーマとして検討したい。

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