まちと交通 2024年5月 87号
1/6

2024年5月87号 安全な道路を実現する施策として、Zone30が普及し、最近はZone30+の適用へと強化されている。ここで、生活道路の車の速度を30kmに制限する根拠は、「車対歩行者」事故の車の速度別の歩行者の死亡率が50kmでは9割、40kmでは6割、30kmでは2割と大きく低下することにある。物理的には、車の速度に応じて衝突時の運動エネルギー(Kinematic Energy)が大きく異なることにある。 この衝突時の運動エネルギーは、車の重さと衝突の角度や衝突面の形状によっても異なる。また、歩行者と自転車は、衝突時の運動エネルギーが人体に直接作用し、死亡に至りやすいという点で、傷つきやすい道路利用者(VRU; Vulnerable Road User)であり、交通事故の死亡率が高くなるため、特別な注意が必要である。 このため、様々な道路利用者の運動エネルギーの違いを考慮した「安全な道路」の在り方が提案されている。ITFの「より良い都市のための街路再配分」レポートでは、運動エネルギーの大きな車は、歩行者が最優先の道路には入れるべきではない。いれるとしても、制限速度は10kmであり、原則、自転車、バイク、車は進入禁止である。徒歩と自転車、軽量なマイクロモビリティを最優先する道路は、制限速度20kmであり、こちらも、原則、バイクや車は侵入させない。ここで、歩行者が最優先の道路の制限速度10kmとは、歩行者がいない時の最高速度が10kmであり、歩行者がいる場合は歩行者に合わせて大きく速度ダウンする。 この歩行者の死亡に至る衝突を生じさせないようにする「安全な道路」の考え方は、Vision ZeroをめざすSSA(Safe Sys-tem Approach)の一つであり、ボンエルフ*と共通しており、フランスが近年、都心部道路でZone20や歩行者専用道路を積極的に整備する施策とも共通している。 この「安全な道路」の考え方は、欧米では、生活道路や都心部の道路だけでなく幹線道路でも実践されている。例えば、幹線道路の交差点において、車の左折時に歩行者が運転手の視野の正面に来るように交通島やクリアゾーンを設置して左折動線を変更する交差点改良や、歩行者と自転車と車の動線を空間的に分離するprotected intersection for bikeの整備が進んでいる。 わが国において、歩行者の交通事故死を大きく減少するためには、これらの「安全な道路」の考え方を実践していく必要がある。*歩行者が道路全幅を使えて車の制限速度を15km/hとする歩行者最優先の生活道路豊田都市交通研究所 副理事長兼所長原田 昇「2024年度研究報告会」開催●日時/7月2日(火) 13:30〜16:30●会場/豊田産業文化センター※詳細は近日WEB(https://www.ttri.or.jp)に掲載します。「まちべん」に参加しませんか<今後の予定>●日時/6月19日(水)、8月21日(水) いずれも18:30〜19:30●会場/「とよた市民活動センター ホール」(豊田市若宮町1-57-1 T-FACE A館9階)※詳細はWEBに掲載中(https://www.ttri.or.jp/machiben/)お知らせ「安全な道路」の    実現に向けて公益財団法人 豊田都市交通研究所

元のページ  ../index.html#1

このブックを見る