まちと交通 2023年11月 85号
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加することが望ましいでしょう。たとえば、ビギナードライバが当初の運転操作を維持する、ベテランドライバが自らの運転の癖を見直す、そして50歳台、60歳台が今後の運転を考えるなど、それぞれのステージで運転評価には意義があると思われます。そうして社会全体で安全運転に取り組むことが、交通事故低減、さらには安全・安心なモビリティ社会につながると考えます。図3/並列構造の結果(令和5年研究成果報告会資料を編集)いうことです。それによって、現在の認知機能の状態を代入して、現在の自分の急減速事例の発生傾向を推定し、実際の運転との比較を通して運転を考えるきっかけにする、現在の「認知機能成績が高い」が将来「認知機能成績が低い」に変わった場合のシミュレーションをする、「急減速事例が少ない」ドライバになるための認知機能成績の状態、いわば「急減速事例が少ないドライバ」のプロフィールを作成するなどの活用方法が考えられます。 ただし、本研究はまだ基礎的な段階であり、構造解析による予測の信頼性や実装の可能性などまだ課題は残されています。また、本研究では急減速事例にのみ着目しました。一般の運転評価アプリケーションでは、加減速、ハンドル操作などさまざまな運転操作を評価しています。本研究の手法で、それらの多様な運転操作と人間特性との関係性を明らかにすることができれば、より総合的な運転評価につながると思われます。 高齢ドライバが関わる交通事故低減は重要な社会課題であることを冒頭で述べました。しかし、この課題に取り組むのはいわゆる「高齢ドライバ」だけではないと考えます。本来は、ハンドルを握る多くのドライバが、定期的に運転を見直す取り組みに参2)Campbell, K. L, The SHRP 2 naturalistic driving study: Addressing driver perfor-mance and behavior in traffic safety. Tr News(282), 2012.3)Dingus, T. A., et al., The 100-car natural-istic driving study, Phase II-results of the 100-car field experiment, 2006.4)Li, G., et al., Longitudinal research on ag-ing drivers (LongROAD): study design and methods. Injury epidemiology, 4(1), 1-16, 2017.5)Marshall, S. C., et al., Protocol for Can-drive II/Ozcandrive, a multicentre pro-spective older driver cohort study. Acci-dent Analysis & Prevention, 61, 245-252, 2013.6)青木宏文, ドライブレコーダーを使用した高齢者の研究, 2022年度 (一社) ドライブレコーダー協議会総会特別講演会, 2022, https://www.jdrc.or.jp/master/wp-con-tent/uploads/2022/07/20220623.pdf, アクセス日2022/10/17.【参考文献】1)金 炅敏ら, 運転免許保有者数と運転者数の推移における年齢・時代・コーホート効果の分析と将来推計,土木学会論文集G(環境), 2021, 77 (6), p. II_227-II_234. 次に、構造解析を使って、急減速事例の発生に関わる要因を検討しました。構造解析は、各変数をノード、ノード間をつなぐ線をリンクとして、変数間の関係性を視覚的なグラフとして表すものです。今回は、あらかじめ変数間の関係性、つまり構造を仮定し、その構造の性能の評価から最終的な構造を決定しました。仮定した構造のポイントは、急減速事例(R)に関わる2つの変数、認知機能(C)と運転に対する態度・意識(A)との位置関係で、CとAが並列に位置して、それぞれがRに関連するという並列構造と、AがCを形成し、それがRに関連するという階層構造を仮定しました。なお、Rは、選別した安全運転に関わるイベントの急減速全体(全て)、それを信号交差点や一時停止標識のある交差点、標識のない交差点、交差点以外といった場面ごとに集計した「信号」、「一時停止」、「その他交差点」、「交差点以外」としました。結果として、並列構造の方が階層構造よりもモデル性能が高いことが示されました。【図3】に、並列構造の結果を示します。 【図3】の並列構造は、下段に個人属性(年齢、性別、教育年数)、中下段に視覚機能(コントラスト感度や動体視力)、中段に認知機能(Trail Making Test Part B)と運転に対する態度・意識(対処行動「道路環境からの情報獲得をしない」、運転スタイル「運転に対する消極性」)が配置され、上段の各急減速事例に至る道筋を形成しています。 【図3】によって変数間の関係性はわかりました。それではどんな人間特性をもつドライバが、急減速事例が多い、あるいは少ないといえるのでしょうか。この構造解析では、ある変数に特定の状態を代入した場合のその他の変数の状態の確率を計算することができます。つまり、「認知機能成績が高い」ドライバが「急減速事例が少ない(または多い)」ドライバである確率を算出できると終わりに終わりに■■■■■■■■■■■ff■■■■■■■■■■■■■■■■■■

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