まちと交通 2023年2月 82号
4/6

推定値0.0790.1490.1570.203-0.0030.253-0.0140.1090.1900.032-0.018判定オッズ比1.081.161.171.231.001.290.991.121.211.030.98******************定数項男性大人自転車車種(スポーツタイプ)自動車台数(台/10min)車道の自転車通行空間幅員(m)日照時間(h)車道通行率提示看板設置(1-3週目)車道通行率提示看板設置(4-6週目)命令情報提示看板設置(1-3週目)命令情報提示看板設置(4-6週目)データ数(車道自転車数):1454(477)McFadden の疑似決定係数:0.169***:P<0.001、 **:p<0.01、 *:p<0.05表2/車道通行に影響する要因の分析(推定値が正の場合、車道走行をするに影響)⑴Social Incentives(SI)(社会的動機): 人は他人の行動が気になり、同じようにするか、より良い行動をしたいとする。社会的規範(Social Norm)とも表現される。⑵Immediate Reward(IR)(即応報酬): 人は「将来」の報酬に反応しづらいが「直近」の報酬には反応しやすく、そして「直近」の報酬が与えられた人の方が将来の行動も変化する。⑶Progress Monitoring(PM)(前進の監視): 人は「良化」している現状を継続的にモニタリングすることで、より良い行動をしようとする。 当研究所では、上記の3つのポイントを応用した自転車通行空間における情報の提示が自転車利用者の意識−行動意図−を変えさせるかどうかをいくつかの手法から検証しています。ここでは、紙面の都合上、その一つである車道通行率提示看板について紹介します。 実験は、過年度調査によって明らかとなった自転車通行空間の広さや自動車交通量の少なさといった安全性が比較的担保されている2区間を対象に、1週間ごとに計測した自転車車道通行率(いわゆる、他者の行動)を提示する看板を設置しました。これはSIのポイントを応用したものになります。計測した車道通行率が直前週の値を上回っていた場合、当該看板に当該状況を鼓舞−具体的には「いいね!」という情報の提示−する情報を追加提示しました。これは、IRのポイントである報酬を与えるものになっています。加えて、直前週の車道通行率を併せて提示し、その変化量を提示しました。これは、PMのポイントを踏まえたものです。なお、比較対象として、一般に用いられる歩道走行を回避させる命令情報(歩道を走らないで)を提示した看板でも同様の調査を実施しました。 結果、【表2】に示す通り、一般的な命令情報提示看板に比べ、車道通行率提示看板の設置は有意に車道通行が促されることがわかりました。特にその効果は、設置期間が長くなるほど増加していました。本結果は、あくまで限られた条件下でのものですので、更なる追試等を行うなど一般化に向けた取組を継続していく重要性は高いと考えますが、このような情報提供の手法を用いることで、車道混在のような法的拘束力を持たない空間においても効果的に車道通行を促すことができる可能性があることを提示できたと考えます。 国土交通省1)によれば、自転車ネットワーク計画を策定した自治体は2020年3月31日時点で203自治体(全自治体の約12%)であり、近年は増加傾向にあるようです。自転車ネットワークの形成は、自転車利用者の安全性や快適性を高める上で極めて重要ではありますが、とくに規定の通行空間が確保できないなかで暫定形態として車道混在にて運用する場合には、安全性の観点からの検討を極めて真摯に行う必要があるでしょう。そのうえで、安全性の観点から相応な空間である車道混在の整備区間であるにも関わらず、自転車の適正利用向上がみられないケースにおいて、本研究で提案した車道通行を促すアプローチが有効となることを改めて強調したいと思います。行政、地域、我々のような研究機関が連携し、自転車通行空間の整備・適正利用がされ続け、その結果、さらによりよい交通空間が実現していくスパイラルアップの実現を目指し、今後も努力していきたいと考えています。 最後になりますが、本研究の成果は、大同大学嶋田喜昭教授、豊橋技術科学大学坪井志朗助教(元豊田都市交通研究所研究員)との共同研究によるものです。ここに記し感謝の意を表します。【参考文献】1)国土交通省:自転車利用環境の整備,https://www.mlit.go.jp/road/road/bicy-cle/(2023.1.10最終閲覧)2)金子、松本、簑島:自転車事故発生状況の分析 土木技術資料51-4 20093)国土交通省:自転車通行環境整備モデル地区の調査結果について,https://ww-w.mlit.go.jp/report/press/road01_h-h_000190.html(2023.1.10最終閲覧)4)Tali Sharot: How to motivate yourself to change your behavior, TEDxCambridge, https://www.tedxcambridge.com/talk/how-to-motivate-yourself-to-change-your-behavior/,2014. (2023.1.10最終閲覧)さいごに

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る