特集 わが国では、1970年の自転車の歩道通行を可能とする交通規制の導入以降、自転車の車両としての位置付けや通行空間が曖昧なままに道路空間が整備され、歩道通行時における自転車と歩行者の交通事故の増加などの弊害が生じてきました。この解消に向け、警察庁及び国土交通省では、安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン(以下、ガイドライン)の作成や法改正等を実施し、国や地方公共団体ではそのガイドラインに従った対応を進めています。しかしながら、まだ自転車通行空間の整備過渡期であるがゆえか、整備された空間を利用せず、これまでの慣習に従った通行を維持する自転車利用者も多いなど、利用と空間のギャップが生じています。 国土交通省1)によれば、歩行者と分離された自転車通行空間の整備延長は2019年3月31日時点で約2,930㎞ですが、そのうち自転車と自動車が車道で混在する車道 そもそも自転車通行空間の整備と自転車利用者の安全性向上の関係性は、どのような背景から言われているのでしょうか。自転車通行空間の整備により、自転車が適正に車道を通行するようになることで、歩道上での歩行者事故の抑制はもちろん、交差点における視認性向上や自動車と錯綜する地点までの距離が伸びることなどにより出会い頭事故が抑制されることなどが言われています2)。国土交通省が実施した自転車通行環境整備モデル地区(98地区)における自転車関連事故件数の整備前後の比較結果3)では、自転車道、自転車専図1/車道混在(出典:安全で快適な自転車通行空間創出ガイドライン(2012))関与する事故をどの程度抑制できるかに対する知見の重要性は高いでしょう。また、当該整備により自転車の車道通行にかかる実効性がどの程度担保されるかという点もあるでしょう。車道混在は自転車の車道上の通行位置を示す法定外の表示であり、必ずそこを通行しなければならないといった法的な拘束力はありません。暫定形態が採用されるような比較的規格の高い道路では、歩道が併設されていることがほとんどで、その歩道に自転車歩道通行可の規制が指定される例もあります。取締りのような効力の高い手法を用いることができないなかで、当該空間を利用してもらえるようになる手法の重要性も同様に高いものと考えます。 以上の問題意識に関して、以下では近年当研究所で進めた研究成果を報告します。混在の整備形態が2,150㎞と全体の約70%を占めています。車道混在は、【図1】に示すように自転車の通行位置を示し、自動車に自転車が車道内で混在することを注意喚起するといった意図で整備される路面表示です。上述のガイドラインでは、車道混在は、自動車の速度が低く、自動車交通量が少ない道路に整備されるものとされています。加えて、道路空間再配分等を行っても、本来整備すべき形態での自転車通行空間整備が当面困難な場合かつ自転車利用者の安全性を速やかに向上させなければならない場合にも、暫定形態として整備されるものとされています。車道混在の現状の整備延長において、完成形態、暫定形態のどちらが長いかは明らかではありませんが、暫定形態で当面車道混在が整備されることで生じるであろう課題について、検討しておく意義は少なくないと思われます。例えば、狙いとする「自転車の安全性を速やかに向上させる」ということに対してどの程度の効力を有するかという点があります。車道混在という整備形態により、自転車が研究部 主幹研究員 三村 泰広はじめに車道混在の整備と自転車関連事故自転車通行空間利用の 適正化に向けて
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