まちと交通 2003年11月 8号
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特集 所長就任記念講演会Feature Articles8 TTRI Letter №8 仕組みについてはまた、都市交通政策のベースになる地方分権化や地方財源の問題があり、加えて都市圏交通マスタープランについては、今日はあまり触れませんが、我々は豊田という都市を考える時に、都市圏という考え方で、一つの行政や自治体を越えた生活の中での交通のあり方を研究していく必要があるのではないかと思います。 パラダイムシフトについて多少時間をとりましたが、いろいろな新しい考え方として、交通の政策というものは、交通の問題を解くことですが、交通の中だけでは終わらないということです。やはり、都市交通の問題は、まちづくりと一体的に考えなければならないと思っております。 政策の方向性として、専門家や国際機関の間で、世界の共通認識になっていることの一つに、持続可能性、サスティナビリティという観点からの考え方があります。1992年にリオ・デ・ジャネイロで開かれました国連の地球サミットのテーマであり、国際的にも認知された、世代間での環境、資源の公平性の問題です。我々がいろいろなニーズを満たすために必要になるような環境資源は、我々の後の世代まできちんと残して行きましょうという考え方が、様々な政策のベースになっております。 交通関係では、基本的な政策の一般目標として三つの側面が考えられております。一つ目は、今申し上げました環境や資源の問題から、環境負荷の少ない地球温暖化問題を起こさないような交通を考えなければならないということです。私はそれに健康と交通安全の問題を加えております。この問題は人間という種の存続に関わる問題と思っておりますので、人間の健康に直接絡む意味で非常に重要な問題だろうと思います。 また、経済財政的に持続可能でなければいけない。公共交通を維持するためには、もしそれが財政的な支援を社会的に必要とするのならば、きちんとした支援の仕組みを作って行かなければならない。ただし、補助金の垂れ流しと言われる状況にならないように効率的な運営が前提です。その上でどうしても必要な資金が足りなければ、公的支援を導入する。そういう新しい仕組みを作っていく必要があるというのが、二つ目の経済・財政面です。 三つ目が社会面。先にお話した交通弱者の問題です。交通というものがそれを通して社会参加の基本的な手段となっています。この交通手段がないと仕事にも、病院にも行けない。社会的に公平なモビリティを確保することが、政策において重要なことであります。 以上三つの側面を含めて、持続可能な都市、あるいは持続可能な交通として、世界各都市での交通政策目標のベースになっております。しかし、これはあくまで一般論ですから、それを如何に自分たちの都市に相応しい形で達成していくかというところだろうと思います。 交通の面での方向性は以上のことになりますが、私は交通がまちづくりや国づくりを支えているというように捉えたいと思いますので、全体目標として更に上の、どういうまちをつくりたいか、まちづくりの目標は何かというような都市政策や都市経営の視点で、都市全体の中で交通をどう見るかという位置づけが必要ではなかろうかと思っております。 次に、モビリティからアクセシビリティへ。モビリティというのは、いつでもどこでも自由に移動できることです。その意味で車が使えるという条件があれば、非常にいいということは一致している意見だと思いますが、モビリティとは一体何のためかということを考えますと、単にあちこち行けても仕方がないのです。行くこと自体が楽しければそれで構いませんが、我々が車を使い、動く一番の目的は、働きたい場所、買い物をしたい物があり、そこまで行けることです。動けるというよりは、それを通していろいろな場所のショッピングセンターや職場に行ける可能性があるということが重要なのです。行きたい場所や目的の場所へ如何に容易に行けるかが交通の最終的な目標です。ですから、行くところがなければ、勝手に自由に動けても仕方がないのです。当然のことですが、この点を考え直す必要があると思います。目的施設が徒歩や短距離で行ける場所に設けられていれば、交通機関を使わなくても済みます。そういうことを含め、これはまちづくりと一体的な交通戦略、交通政策があるのではないかと思います。 目標としてAccessibility for All with Sustainabilityという言葉を挙げておりますが、持続可能性というのはむしろ制約条件と考えた方がいいのかもしれないと最近私は思っております。制約条件を越え、どのような都市を目指しているかを明らかにする。都市のビジョンや都市計画の方向をみんなで議論し、その合意形成に努める必要があるのではないかと思います。なんとなく、私には持続可能性が守りの姿勢に見えなくもないと意識するようになりました。ですから、持続可能性は条件であり、その条件を越えて、かつどのような都市に、あるいはどのような住まい方をしたいかという議論を基に積極的に政策を進める必要があるのではないかと思っております。そういう意味でもっとポジティブな都市交通政策の目標づくりが必要だと思います。 また、そういう政策の方向がもし合意できたとすれば、それをどう実現していくか。都市計画や交通政策というものは実現の仕方を担保するところまでやるべきだろうと思います。そういう意味では、都市政策・交通政策と統合・整合したアプローチが必要となってきます。これについて、イギリスが大変おもしろいアプローチをしております。統合交通政策、インテグレーテッド・トランスポート・ポリシー(Integrated Transport Policy)と言われておりますが、まちづくりや地域開発だけには限らず、医療と福祉政策の統合策として、医療や福祉施設に車がなくても簡単に行けること、その施設が使えるよう交通がサポートするということが柱になっております。それには教育関係も対象になっております。イギリスでは子供の通学に車が使われることが多くなり、それが渋滞や大気汚染の問題になったことから、もう一度、学校区ということも含めて、歩けるような近い距離に編成する、あるいはスクールバスなどで相乗りをするということを今一生懸命考えております。交通はい
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