まちと交通 2003年11月 8号
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特集 所長就任記念講演会Feature Articles6  TTRI Letter №8  図1 都市交通政策のパラダイムシフト4. 都市交通政策のパラダイムシフト そういう背景の中で私どもは交通政策をどう考えていくべきか。都市交通施策のパラダムシフトという図(図1)で説明いたします。これはいろいろなところで出しておりますが、改めてご紹介をしておきたいと思います。 交通政策をどう捉えるか、少し理論的になるかもしれませんが、需要の問題、供給の問題それを上手くバランスをとってサポートするということになります。図中、需要サイドをアクティビティ、都市活動ということで「A」としております。住む、働く、憩う、遊ぶということを含めた都市のいろいろな活動がどんどん増えるに従って、交通の需要も増えて行きます。それに対して、供給サイドを交通システム「T」としております。道路自動車交通や鉄道、バス、あるいは徒歩、自転車という全体のシステムです。皆さんの所得が上がり、それぞれ自分で車を持つようになると需要の方が増えてしまいます。それに応じて道路、鉄道を造るというようなことはそれほど簡単にできません。すると非常にアンバランスな状態が起こってしまいます。 従来は、需要が大きくなるにあわせて、道路を整備したり、鉄道を整備したり、バスを増やしたりする対応でバランスをとる考え方、つまり需要追随型アプローチをとっておりました。しかし、これには限界があることが、'90年代から先進国ではっきりしてきました。その一つは、需要の伸びがあまりにも早く、急激で、それにあわせて道路をどんどん造ることができない。資金がない。また、沿道住民に迷惑施設として反対される。そういう意味では資金があっても供給サイドの整備が充分にできない状況で、需要にあわせて供給を増やすことができない。もう一つは、それができたとしても、そのこと自体が環境問題を生じさせて、それが問題となり、結局使えないという状況があります。この二重の意味で従来のアプローチは限界がきたということです。 一方、統合パッケージ型アプローチ、需要管理型アプローチという新しいアプローチの一番の特徴は、需要サイドを野放図にしておくのではなく、環境制約の中に納めましょうというところです。環境制約のない徒歩や自転車、あるいは低公害の車による需要を増やしていただきましょう。ただし、それはあくまでも環境制約の中に納めるということです。交通需要マネジメントと言っておりますが、需要を環境制約の中に抑制することが一つ新しい大きな考え方です。しかし、T0(ティ・ゼロ)というように交通システムが昔のままでいいかと言えばそれはできません。電車やバスなどを使うには、それにあったバス道路や自転車道路、歩道を造らなければなりません。東京のようなところでも、環状道路がないため都心部までどうしても自動車交通が入ってしまうとすれば、環境制約の中で、ある程度道路整備や公共交通の整備をする必要があります。従って、限定的ですが、きちんとした本格的な交通網を整備する必要があります。 そして同時に、新しいアプローチではバランスの支点を変えてあります。つまり、仕組みを変えなければできないということです。例えば、公共交通を整備しようにも資金がなければ、どこかからその資金を調達する新しい仕組みを作らなければなりません。特に環境問題が大きな制約となりますが、環境制約をきちんと守っていただき、それが限界となるようであれば、例えば私どもが東京都で議論しておりますようなロード・プライシングや全国的には環境税という方法で環境に迷惑をかける者から料金を取って、そのお金で環境にいい交通施設をつくるなど、費用の負担の仕方を変えていく。それには新しい仕組みが必要になります。それを支点の変化で表しております。交通需要サイドのマネジメントと供給サイドの整備、それから仕組みの改善を三点セットと言っておりますが、この需要、供給、制度・仕組みを全体として、パッケージにして対応しなければ問題は解決できない状態であるという考え方が支配的になっていると思います。これを基本的な考え方の変化という意味で、パラダイムシフトという言い方をしております。

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