まちと交通 2003年11月 8号
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特集 所長就任記念講演会Feature ArticlesTTRI Letter №8   5【都市交通政策のパラダイムシフト】◆需要追随型アプローチから需要調整(統合 パッケージ)型アプローチ◆政策の方向性: 持続可能性(サスティナビリティ)  ①環境面(健康,安全を含む)  ②経済・財政面環境 ③社会面◆新たな全体目標(まちづくり,都市政策,都市経営の視点) -モビリティからアクセシビリティへ   (Accessibility for All with               Sustainability) -制約条件としての持続可能性 -ポジティブな都市交通政策の目標づくり◆実現に向けた取り組みの見直し -都市政策・環境政策などとの統合・整合  したアプローチ -都市交通マスタープランと交通戦略夫することであり、それは同時に、都市そのもののあり方を工夫することにならざるを得ないと思っております。それを基に全国、世界に発信していくという役割が一番ベースのスタンスと、私は考えております。 それでは、都市交通の基本的課題とは何かということになりますが、車依存社会において、20世紀から残された最も大きな課題は、従来からの交通渋滞や交通安全の問題があります。それから、交通弱者の問題。一般の人でたまたま車を使えない人、それから身体障害や高齢のため自分では車を使えない人達、あるいは運転免許が持てない年齢のため車を使えない子供達などたくさんの方がおります。また、健康で家に車があっても、病気になったり、重い物を持たなければいけなかったり、時には通常の車が使えないケースが生ずることもあります。その場合の基本的な移動手段を確保することは、大変重要だと思います。ある意味では誰もが一時的な交通弱者になる可能性を持っています。それに対して、車先進国であるアメリカやイギリスをはじめとするヨーロッパ社会では、ベースのモビリティを公共で確保する必要性については意見が一致しているかと思います。一方、日本では、まだ、この点について社会的合意までは至っていないと思います。 欧米の交通政策を見ますと、日本は車先進国から20~30年遅れて車社会を追っかけているように見えます。そのため車社会での車の使い方や車社会の欠点を補う制度が大変遅れていると思われます。きちんと公共交通を提供するというスタンスや考え方、あるいは制度が、残念ながら日本は遅れております。実際30年前のヨーロッパでも、現在日本が苦労しているような公共交通の赤字問題を同様に抱えておりましたが、公共交通は公共サービスとして、一定レベルは一般の税金を使うことも必要だという市民の合意が得られて、様々な仕組みや制度を作ってきている経緯があります。そういう前例等はいろいろ我々も勉強するところがあるのではないかと思っております。 もう一つ大きな問題として都心衰退があります。車があまりに便利な乗り物であるため、我々のライフスタイルや住まい方のすべてが車依存になり、より広い家に、より自然に近いところに住むためにどんどん郊外に出ていき、その結果都市が拡散しました。拡散するだけであればまだいいのですが、そのことによって従来の都心部が衰退していくという問題が生じてまいりました。資本主義の世の中、不必要な都心ならば衰退していくのが当然と言えなくはないのですが、都心部のような地域の歴史的資産は次世代に非常に役に立つ重要な地域の記憶装置でもありますから、地域の資産として活かしていくことが大変重要だろうと考えております。そのような意味で、まちづくりの問題についてきちんと対応していく、答えを出していくということが、車先進都市である豊田市にも求められているのではないかと思っております。  それから一般的な課題で、今後のことを考えますと、社会経済動向は非常に動いております。グローバル化や経済の停滞により様々な産業が国外へ出ていくことを含めて、将来の経済的分野の見通しが不安であるという中で、交通を考えなければいけません。それは当然、人口減少や少子高齢化の問題もあわせた上で、考えなければなりません。それに対して、私どもにはすぐ対応できる力はありませんが、そのような流れの中、では新しい交通社会は何であろうか、そこに求められる交通のニーズとは何かを改めて考えなければならないだろうと思っております。また加えて、最近、国土交通省の審議会の中でも使われる市街地縮退という、高齢化社会で人が減っていく中で、市街地が拡がり過ぎた分、ある意味で整理する、適切な大きさに直していくことも必要かと改めて感じたところです。 いずれにしましても、非常に大きな社会経済動向の変動の中で、また、まちづくりの基本的な動向が変わりつつある中で、私どもは自分たちのまちをどうしていくかを真剣に考える必要があるでしょう。そういう意味でこれからの課題、非常にチャレンジングな課題が多いと思っております。これは一つの自治体だけで解決できる問題ではなく、市民の皆さんや企業の皆さんと一緒になって取り組まなければならない非常に大きな課題だろうと思います。

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