まちと交通 2019年8月 68号
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研究部主席研究員 西堀 泰英豊田市での大規模イベントに合わせた先進技術の実証実験研究員報告■はじめに 豊田市では、8月以降に2つの大きなイベントが開催されます。ひとつは、7月23日から始まっている「クリムト展 ウィーンと日本1900」(10月14日まで)です。そしてもうひとつは、いよいよ9月に開幕する「ラグビーワールドカップ2019」です。10月にかけて4試合が豊田スタジアムで行われます。これらのイベントで国内外から多くの方が豊田市に来られるのに合わせて、自動運転やパーソナルモビリティなどの先進技術を体験いただける実証実験が予定されています。ここでは、「クリムト展」の会期中に行われる自動運転の実証実験を中心に、これらについて紹介します。■クリムト展×ゆっくり自動運転® 「クリムト展」は、19世紀末から20世紀にかけてウィーンで活躍した画家グスタフ・クリムトの歿後100年、日本オーストリア友好150周年の記念展です。クリムト展の期間には豊田市内や名古屋市内を主な会場として、国内で最大規模の国際芸術祭である「あいちトリエンナーレ2019」も開催中です。 クリムト展の会場となる豊田市美術館は、建築家として著名な谷口吉生氏の設計によるものです。豊田市美術館は駅周辺からみて南方の少し離れた高台にあります。この高台はかつて挙母城の本丸が置かれていた場所で、隅櫓が復元され城跡公園として整備されています。(挙母は豊田市の旧称であり、昭和34年に市名が挙母市から豊田市に変更されました。) 駅周辺と豊田市美術館の間は歩いて15分ほどの距離です。歩いても行くことができる距離なのですが、中にはちょっと大変と思われる方や、できることなら乗り物で移動したいと思われる方がいらっしゃるかもしれません。こうした移動を支援するモビリティとしての有効性や、中心市街地において自動運転車両が走行することの影響などを検証するため、8月29日(木)から31日(土)までの3日間、自動運転の実証実験が実施されます。後ほど述べるように、当研究所もこの実証実験に参画しています。 実証実験では、希望者を募って駅周辺から豊田市美術館までの間を自動運転車両で運びます。試乗希望者の受付は、名古屋鉄道豊田市駅の1階に設置されるあいちトリエンナーレ2019受付窓口で行います。1回の走行で2名まで乗車できます。詳細な運行スケジュールは現在検討中ですが、概ね30分に1回程度の頻度で豊田市駅を出発する予定です。なお、豊田市美術館から豊田市駅までの移動には使用できませんのでご注意ください。 自動運転車両には、名古屋大学未来社会創造機構の協力のもと、時速20km以下の低速で走行するゆっくり自動運転®の車両を用います。ゆっくり自動運転®は、通常の速度よりもゆっくりな自動運転にすることで、安全性を高めるとともに、沿道の人々とのふれあいや、まちの景色を眺めながら移動する、といったこともできます。使用する車両は電動ゴルフカートを改良したもので、ドアやシートベルトがないのが特徴です。真夏の環境下でドアや冷房がない車両を用いるため、試乗者や関係者の体調管理には十分配慮して実証実験を実施できるよう準備を進めています。 当研究所は、この実証実験の実施業務を請け負っています。さらに、低速で走行する自動運転車両が中心市街地の道路を走行することによる周辺の交通に与える影響に関する研究を、名古屋大学との共同研究で取り組んでいます。 豊田市美術館の周辺では、移転した豊田東高等学校の跡地に(仮称)豊田市博物館を整備することが計画されています。そしてこの一帯を文化ゾーンとして整備する構想もあります。今回の実証実験のように、駅周辺から文化ゾーンまでの移動手段が確保されるようになれば、中心市街地での回遊がさらに促進され、まちの活性化にもつながるのではないかと期待しています。■ラグビーワールドカップ2019× 先進的モビリティ体験 「ラグビーワールドカップ2019」は9月20日に日本で開幕します。豊田市にある豊田スタジアムでは9月23日のウェールズvsジョージア、9月28日のアフリカvsナミビア、10月5日の日本vsサモア、10月12日のニュージーランドvsイタリアが行われます。 これらの試合を豊田スタジアムに観に来られる外国の方を含む観戦者の皆さまに、先進的な技術を使ったモビリティの体験ができるよう準備が進められる予定です。新型の燃料電池バスや、パーソナルモビリティなどが候補に挙がっています。ここには書けませんが、他にもたくさんの新しいモビリティの体験ができるよう準備が進められています。豊田スタジアムで繰り広げられるラグビーの熱戦とともに、豊田市のまちなかでは未来の社会を垣間見ることができるかもしれません。■おわりに 豊田市では、様々な先進技術の活用や先進的な活動を進めることを通じ、全国に先駆けて未来の社会を普通に体験できるようにする取り組みを「ミライのフツー」と呼んで進めています。豊田市で開催されるイベントを通じて、日本国内はもちろん世界中の多くの皆さまに、豊田市におけるミライのフツーを実感していただきたく思います。読者の皆さまにも、今回のイベントの機会に豊田市にお越しいただき、様々なミライのフツーを体験いただければ幸いです。写真1/自動運転で使用する車両写真2/豊田市美術館こ ろ も

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