まちと交通 2017年8月 60号
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0©2017google, ZENRIN3.0m研究部主席研究員 三村 泰広住民主導の生活道路の交通安全対策に向けて研究員報告 国の交通安全に関する施策の大綱を定めた最新の交通安全基本計画の中で、死亡事故発生割合の増加を背景に「生活道路※1の安全確保」が重点対象の一つに掲げられています。この基本計画を基に、豊田市を始めとする地方公共団体は生活道路の交通事故の削減に向けて様々な取り組み※2を行っていますが、生活道路での交通安全を推進していく上では、より身近な道路であることからも地域住民の皆さんとの「共働」で取り組んでいくことがとても重要になります。 今、地域住民の皆さんが中心となり、まさに現在進行形で生活道路の交通安全取り組みを活性化していこうとしている地域があります。ここでは、その地域の紹介とともに、当研究所がお手伝いした「はじめの一歩」について報告します。福受自治区の悩み 福受自治区※3は豊田市の南西部、岡崎市と安城市にほど近い地域です。当自治区の悩みは自治区の中心を走る生活道路に進入してくる「通過交通」です。当該自治区の中心地区は西部は(主)豊田安城線、南部は(主)名古屋岡崎線に近接しています。この両幹線道路は豊田市幹線道路網整備計画※4における整備計画路線でもあり、渋滞解消などの日常の生活移動の円滑化を目指した対策が予定・要望されている箇所です。朝夕の時間帯になると、両幹線道路が交わる交差点を起点として渋滞が発生します。福受自治区の中心を走る生活道路は、この両幹線道路のちょうど対角線を結ぶような道路であり、渋滞が激しさを増すと、それを回避するかのように通過交通が自治区に進入してくるのです。写真にも示していますが、この生活道路は決して車が「走りやすい」道路ではありません。車道幅員は代表地点で3m程度と双方向の道路としては極めて狭いうえ、通学路にも指定され「安全のみどり線※5」が引かれていることから、運転者はよほど注意して走行をしないといけないはずです。それでも、大半の運転者は渋滞を嫌い、決して走りやすくはない生活道路を「選択」していると予想されるのです。 幸いなことに、この生活道路では平成23年から27年の5年間で死亡者がでるような重大事故は発生していないようです。ただし、視認性の悪いいくつかの交差点で車両同士の事故が10件以上発生しています。上述のように、これらの原因となっている幹線道路は整備計画の俎上に乗っていることから、将来的にこの問題は解消されるかもしれません。しかし地域住民の皆さんは不確実な「将来」ではなく、確実な「今」を見据えてなんとかしなければと考え、対策の必要性を真剣に議論していたのだろうと思います。はじめの一歩 研究所がお手伝いをする発端となったのは、福受自治区の区長から当自治区を所管する豊田市の上郷支所に対策に関する相談があったことでした。同支所には、長年に渡り豊田市の交通政策を作り上げた方が在籍されています。その方と研究所は長いお付き合いがあったこともあり、研究所に対して通過交通対策に関する話題提供をしてもらえないかといった依頼がありました。 話題提供は、自治区の区民会館をお借りして行うことになりました。当日は地域住民の皆さんに区民会館にお集まり頂き、まずは研究所から生活道路の交通安全、特に通過交通の対策において事例をベースに解説を行い、その後、意見交換を行うという流れで進められました。 そもそも道路ネットワーク的に幹線道路の渋滞箇所を回避できる生活道路となっているという福受自治区の状況からは、相当の強制力をもつ対策を打たなければ、問題の解決に繋がらないだろうということが予想されました。研究所からの説明でも時間帯進入規制をはじめ、現在国土交通省でも本格的に導入推進の検討を進めている「ライジングボラード※6」の解説なども行いつつ、まずはどういったことが実現できそうかを説明するとともに、どのように実現にむけて取り組めばよいのかについて解説を行いました。 特に強調したのは、地域で実際に対策を実現していく上で「地域住民の皆さんの総意」と「交通量などの客観的データの収集」が重要であることです。進入規制などの通過交通を抑制するような対策には、一部の地域住民の皆さんの移動に負担をかけるようなデメリットが生じます。この点を踏まえ、通過交通の問題に対する地域住民の総意がなければ効果的で持続可能な対策は実現できないことを伝えました。また、対策を実際に整備するのは市役所などの「道路管理者」や警察などの「交通管理者」の方々です。とすると、この対策の重要性がいかに高いかを彼ら自身が納得するのは当然ですが、彼ら自身がその事実を対外的に説明できなければいけません。そのために、単に要望するだけでなく、第三者からみても納得できる「客観的な」データでその対策の重要性を明示していくことがとても大事であると伝えました。 説明終了後の意見交換の中で、「この生活道路は昔、進入規制などの交通規制による対策を実施したが、苦情があるなどして結局解除されてしまったことがある」といったお話が聞かれました。「地域としてデメリットを受け入れるだけの周到な準備と覚悟がなければ、うまくいかない」ということを「はじめの一歩」として感じて頂けたのではないかと思います。最後に 豊田市では、区長による要望書という形をとることで地域の要望が関係機関に伝わっていきます。福受自治区はこれから様々な検討を進めて要望書を提出されると思います。本話題提供が発端となって、具体的な対策が実現し地域の安全・安心の向上に結びつくことを心より願います。注:※1地域住民の日常生活に利用される幅員の狭い道路のことです※2例えば、豊田市では平成28年8月に第10次豊田市交通安全計画を作成するとともに、その具体的行動計画を示した豊田市交通安全アクションプランを作成しています(平成28年度は62の関連事業が推進)※3豊田市では一般には町内会、自治会と呼ばれる組織に類似する「自治区」という組織があります※4都市の持続的な成長と発展を目指し、骨格となる幹線道路網の整備を効率的に推進するために作成される計画。最近では平成29年4月に新たな計画が作成されました※5豊田市では、通学路であることを道路利用者に周知するため、歩道もしくは路側帯の一部を緑色に着色する取り組みを行っています※6動力により自動的に昇降し、必要に応じて自動車の通行を許可したり遮断したりするボラード(ポール)のことです勉強会の様子対象箇所の状況

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