まちと交通 2016年11月 57号
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写真2/南知多町(日間賀島)での実証の様子写真3/春日井市(高蔵寺ニュータウン)での実証の様子転は社会に良い効果をもたらすのでしょうか。よくない影響をもたらすことはないのでしょうか。自動運転の光と影、すなわち、良いところだけでなく、良くないところも含めた両面を考える必要があります。 自動運転が普及することの影響を考えるためには、将来の状況を予測する必要があります。現在行われている将来予測は、自動運転が実現した姿を見通すには不確定な要素が多く、将来予測の前提条件の考え方によって、得られる将来の姿は違ったものとなってしまいます。 例えば、ある研究結果では、便利に自動運転車が利用できるようになって、自動車の走行距離が今よりも増加し、環境負荷が増えるという予測をしています。反対に、自動運転車と鉄道やバスなどの公共交通との連携が進み、自動車の利用が減少するという研究成果も出されています。自動車の利用が減少すれば、環境負荷も減少するでしょう。 どちらの将来の姿が正しいのか、現時点では答えを出すことはできません。これらの研究成果から示唆されるのは、自動運転を社会にとって有効なものとしていくためには、前提条件をどう考えるかが重要ということです。私たちの自動運転の使い方次第で、将来の姿が大きく違ったものになるでしょう。 私たちの暮らしになくてはならない自動車は、その普及の過程で交通事故や環境負荷などの大きな問題を抱えました。そして、まだ完全にではないものの、現在までに多くの問題を克服してきました。自動運転がその普及の過程で抱えるかもしれない問題は、過去に自動車が抱えた問題のように大きなものにすることは絶対に避けなければなりません。 自動運転技術の進歩のスピードを考えると、技術の進歩に社会のルールづくりが追いつかない恐れがあります。だからといって、規制でがんじがらめに固めてしまえば私たちが受けることができる恩恵は限られたものになるでしょう。一方で、無秩序に自動運転車の普及を許せば様々な問題が生じるでしょう。どのようにすれば自動運転の良いところを活かし、良くないところを抑えられるのか、私たちの知恵が試されます。大きな可能性を秘めた自動運転を持て余すことのないよう、社会全体でうまくコントロールする方法を考える必要があります。 その方法を探るための一つの方策が、既に各地ではじまっている実証実験です。先ほどご紹介したように、愛知県でも既に実証実験が始まっています(写真2,3)。日本各地のこうした取り組みは、今は実験の段階ですが、今後は対象地域や自動運転の機能(最高速度など)を限定して実用化を目指し、その過程で問題点を洗い出して解決策を提案することが、普及に向けた近道になると考えています。 また、自動運転は、将来の都市の姿を大きく変えるでしょう。交通は私たちが暮らす都市と密接に関係しています。自動運転の普及により交通が変わると、都市の姿も大きく変わるでしょう。例えば、自動運転が普及すると、必ずしもお出かけ先の近くに車を停める必要が無いため、まちなかの駐車場の利用が減少するかもしれません。これまで自動車が占めていたまちなかの車道や駐車場などの空間を、歩道や自転車道、公園など他の用途に活用できる可能性があります。 そうした変化を先取りし、自動運転社会の到来に適した都市を作り上げていけるよう、都市と交通の関係を改めて見つめ直し、将来に向けたまちづくりのあり方を考える必要があります。 弊研究所では、自動運転をテーマとした研究を通じて、自動運転が普及した際のまちづくりのあり方を考えるための知見を提供してまいりたいと考えています。社会への実装に向けた課題
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