まちと交通 2000年10月 4号
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TTRI Letter No.4 6桜花学園大学人文学部 助教授 森田優己は何か。歩きたいという欲求が「退化した」のである。それはなぜか。人間の生活空間が著しく変化したからである。自動車の目線を中心としたまちづくり。自動車の排気ガスによる汚れた空気。そして、何よりも交通事故。バリアフリ-道具・自動車は、door to doorの移動を可能にしたと同時に、交通事故の危険性を家の戸口へ引き寄せた。高齢者や子供の交通事故のおよそ半分は、自宅から100m以内で起きている。つまり、生活空間が安全ではなくなっているのである。 このような視点からみると、「抵抗なく歩ける距離」の短縮は、交通権の侵害のバロメ-タ-でもある。歩行者の交通権は、生活における自動車依存の深化にともなうまちの空間的変化を媒介として、徐々に侵害されてきた。そうして今日、「第2次交通戦争」と呼ばれるにいたったのである。4. 地域社会の再生とコミュニティバス 現代社会におけるコミュニティバスの役割は、崩壊した、もしくは崩壊しつつある地域社会の再生にある。言い換えれば、地域社会を自動車中心社会から人間中心社会へとつくりかえることである。それゆえ、「コミュニティバス」なのだ、と私は思う。 しかし、コミュニティバスも自動車の一種である。排気ガスも排出する。まして、狭い住宅地を走ることが多い。当然、環境対策・安全対策・様々な危機回避措置が必要となる。低公害車両の導入に加えて、一方通行や乗り入れ規制、ひいては自動車交通量の総量規制による走行環境の改善がともなわなければならない。そうでなければ、当該地域を走る自動車が一台増えただけ、ということにもなりかねないだろう。 また、ム-バスは別として、コミュニティバスが営業的に成功しているところはほとんどないと言ってもよかろう。無料もしくは 100円での運行である。車両の購入費や運行の赤字分は、様々な形態で地方自治体が負担しているのが実情である。このような状況をいつまで続けることができるだろうか。いずれ財源難で廃止されるところが出てくるのではなかろうか。現在、自動車を利用している人々が、将来の利用可能性(車の運転ができなくなった時に利用する) のために、現在の費用を負担することに合意するだろうか。 現在の利用者は、高齢者(+身体障害者)がほとんどである。政策対象としても、これらの人々のみが対象とされている場合が多い。たまに、子供も含まれている。「コミュニティの中だけを走行するという意味でコミュニティバスである」と理解すれば、それでいいのかもしれない。しかし、コミュニティバスを存続させるためには、コミュニティ内だけではなく、補助金を支給する地方自治体の住民すべての合意をとりつける工夫が必要であることはいうまでもない。そのためには、コミュニティバスの利用目的や利用対象を狭く(例えば福祉バスなど) 限定しないほうがよいのではないだろうか。 さらに、われわれの生活交通圏は、地域社会の空間的広がりを越えて拡大している。それゆえ、地方自治体がコミュニティバスを生活交通圏における人々の生活交通の起点と終点までの公共交通ネットワ-クの一部(アクセス、イグレス)として位置づけるならば、コミュニティバスが地域の総合交通体系の形成への突破口を切り開くものになる可能性もある。ただし、この場合、既存の公共交通機関の活性化策が同時に打ち出されねばならないことは言うまでもない。 環境悪化や交通事故に対する関心が高まっている今、これらを追い風として、大胆な政策を展開すべきである。そうしてはじめて、コミュニティバスに税金を投入する、もしくは、社会資本として基本料金を負担するということに対しての合意が成立することになろう。第1条 平等性の原則人は、だれでも平等に交通権を有し、交通権を保障される。第2条 安全性の確保人は、交通事故や交通公害から保障されて安全・安心に歩行・ 交通することができ、災害時には緊急・安全に避難し救助される。第3条 利便性の確保人は、連続性と経済性に優れた交通サービスを快適・低廉・便利に利用することができる。第4条 文化性の確保人は、散策・サイクリング・旅行などを楽しみ、交通によって得られる芸術鑑賞・文化活動・スポーツなど豊かな機会を享受できる。第5条 環境保全の尊重国民は、資源を浪費せず地球環境と共生できる交通システムを積極的に創造する。第6条 整合性の尊重国民は、陸・海・空で調和がとれ、しかも住宅・産業施設・公共施設・都市・国土計画と調合性のある公共交通中心の交通システムを積極的に創造する。第7条 国際性の尊重国民は、日本の歴史と風土に根ざした交通システムの創造と交通権の行使によって、世界の平和と福祉と繁栄に積極的に貢献する。第8条 行政の責務政府・地方自治体は、交通に関する情報提供と政策決定への国民の参画をつうじて、利害調整に配慮しながら国民の交通権を最大限に発展させる責務を負う。第9条 交通事業の責務交通およびそれに関連する事業体とその従事者は、安全・快適な労働環境を実現し、その業務をつうじて国民の交通権を最大限に保障し発展させる責務を負う。第10条 国民の責務国民は、交通権を享受するために国民の交通権を最大限に実現し、擁護・発展させる責務を負う。第11条 交通基本法の制定国民は、交通権憲章にもとづく「交通基本法」(仮称)の制定を国に要求しその実現に努力する。●交通権憲章(1998年版)交通権学会

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