まちと交通 2000年10月 4号
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TTRI Letter No.4 2数が全国一多く、このことを自慢にする風潮が高かった。公共交通とくにバスのことを考える人は少なかったのである。いずれ、日本全体がこのような状況になるのではないかとの危惧から、公共交通の研究を群馬で始めたのである。3. 愛知県内のコミュニティバスの研究 3年間の群馬での生活から、再び、愛知県内で生活する事になった。公共交通は愛知では消えることはないだろうと思っていたが、3年ぶりに帰ってみると、「あそこの路線バスが危ない」という噂をあちらこちらで聞くようになった。愛知県もモータリゼーションがすすみ、群馬と同じ状況になるのであろうか、との懸念がますます大きくなってきた。 そのなかで、1995年に東京都武蔵野市がムーバスを運行開始させ、全国に衝撃を与えた。東京都立大学秋山哲男先生から、「東京都下の市部でも廃止代替バスのようなバスが必要だ」との話を聞いていた。それが実現したのである。愛知県内ではどうかと調べたところ、1996年に日進市で運賃が無料の「公共施設巡回バス」が運行開始した。まず、これを中心的な研究対象にして、他の市町村の調査を始めたのである。成果として、文献*2から*11がまとまり、現在も引き続き研究を遂行している。 これまでの研究を通して感じたコミュニティバスの問題点等を以下にまとめ、次章以降に詳述する 1) 目的を明確にすること 2) 利用者による適切な費用負担をかんがえること 3) ルート・ダイヤの設定は目的に合わせること 4) 自治体が地域の交通ニーズ・交通状況を把握するこ と 5) 交通事業者は総合的な事業展開をすること4. 二兎を追うものは一兎も得ず(目的の明確化) コミュニティバスは、全国各地で様々な目的で導入されている。それは、それぞれの地域の交通事情が異なり、対応策も多様になっているためである。たとえば、目的として「高齢者等の交通弱者の社会参加」「公共施設の利用促進」「交通空白地帯の解消」等がよく取り上げられる。 しかし、一つのコミュニティバス事業で複数の目的に対応させることには、無理がある場合がある。おそらく、役所内の横断的な事業として予算化するために、一つの事業に様々な役割を乗せているのであろう。問題は、本当にそれぞれの目的が達成できているかである。無理をしているためにルートの設定、ダイヤの設定が中途半端になっていないであろうか。再確認する必要がある。後述する事項とも関連するが、地域の交通ニーズを充分に把握し、重要な問題点を解消するための目的に絞る方が賢明である。5. 誰のお金で運営するのか (利用者と非利用者との負担バランス) 自治体が関与するバス事業は、公営事業の形態をとっていなくても、利用者がその費用負担をする独立採算であることが望ましい。ところが、コミュニティバスはこの独立採算性を当初から放棄したシステムといえる。では、費用負担は誰が行うべきであろうか。その全てを利用者が負担するのであれば民間事業として成立する。ただし、料金はかなりの高額になり、もはやバスとは呼べなくなるであろう。タクシー料金より高いバス運賃は論外である。 では、運賃無料はどうか。これは目的とも関連するが、不特定多数の人に利用してもらう(これは公共輸送としては当たり前のことだが)を前提にしておいて、自治体の費用負担のみで利用料金を取らない場合には、バスを利用しない人からの反発を招くおそれがある。ましてや、運行ルートが一部地域しか設定されていない場合は特にである。バスを利用できる圏域は意外と狭い。 結局、料金は取るべきであると筆者は考える。乗車ごとに徴収するシステム、会員制にして年会費を徴収するシステム、など、様々な方法が考えられる。ただし、行政側の理由で、交通不便な場所に開設した公共施設への路線は、その公共施設側が負担すべきで、無料の場合があっても良いであろう。 実際に運行しているコミュニティバスをその利用者に評価してもらうと、高い評価が返ってくる。しかし、非利用者側からの反対意見のなかには、税金の使途としての妥当性を疑問視するものもある。行政担当者はこの税金からの持ち出し分の意義について、きちんと説明できるようにすべきである。非利用者からも支持されることが本当のコミュニティバスといえる。6. 交通サービス水準の設定(ルート・ダイヤをどうするのか) 一般論としてと、公共輸送の利用者は、どの地域でも高いサービス水準で運行されているバスを期待している。民間事業であれば、提供するサービスと徴収する料金のバランスで事業ができる。しかし、コミュニティバスは、低料金が前提となっているので、とても高サービスを提供できる状況にない。では、「税金でカバーしているのだから最低限のサービスで我慢しなさい」ということでよいのだろうか。中部大学工学部土木工学科 助教授 磯部友彦

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