まちと交通 2007年11月 21号
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TTRI Letter 21号 3TTRI Letter 21号 2TTRI News Letter特集:交通安全最前線特集:交通安全最前線ヒヤリハットマップを使った交通安全対策 主席研究員 増岡 義弘歩行者の安全を支援するITS 主任研究員 河合 正吉 労働災害における経験則の一つに「ハインリッヒの法則」というものがあり、これは1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというものです。このことは、ひとつの重大な交通事故の背後に、軽微な事故(軽傷事故や物損事故)と無数のヒヤリハットがあることと共通しています。したがって、異常(ヒヤリハット)を認識し、事前に対策を行えば交通事故が防止できることになると考えられています。 研究所では、平成18年度に豊田市内の全小学校の4 最近、ドライブレコーダ(以下DRとします)の導入が運輸・タクシー業界をはじめとして様々なところで進められています。DRは、一般に一定以上の加速度を記録したときの前後数十秒の画像や音声、加速度、速度、発生位置などを記録することが出来ます。DRは、もともと欧州の自動車会社と保険会社が共同して車両の安全機構開発、保険の適正化を目的として研究開発がなされました。米国ではフライトレコーダを開発している国の機関が主導し、今では多くの新規車両に標準的に導入されるなど爆発的に普及しています。日本では、現在のところ後付のものが主流ですが、いずれは新規車両にオプション・標準装備されるなど、社会的な認知が高まり多くの車両に普及する日が来ることが期待されます。 DRで得られたデータは、現在、主に事故を起こした際の参考資料として期待されていますが、今後は予防安全に関する様々な対策に活用することが期待されます。例えば、特に運送業等ではDRを設置することで、監視下に置かれるという緊張感が運転者側に生じ、事故件数が減少したという報告がなされています。これは車両側からのアプローチですが、道路環境側からのアプローチにもDRは期待されています。例えば、発生位置を記録できるDR車両を一定以上地域に走行させることで、急ブレーキが多発する等、地域の交通安全上危険な箇所を抽出することができます。このような試みは既に国主導で実施されてきており、今後豊田地域をはじめ様々な地域で広がっていくことが期待されます。また、研究ベースでは、これまで全く未知の世界だった事故やヒヤリハットの事象がいかに発生するのか、その解明に貢献することが期待されます。いずれはDRで自らの運転技術が詳細に解析され、運転者・車両にフィードバックする教育的なアプローチが可能となると考えられます。いずれにしても、DRが地域の交通安全向上の強力なツールと認知され、普及していくことを期待してやみません。「歩行者のITS」は、高齢者や障害者を含む歩行者、車椅子利用者、自転車利用者などに、安心・安全・円滑な移動環境を提供しようとするもので、「周辺情報提供」「経路案内」「注意喚起」の3つの分野で取り組みがされています。今回は、特に安心・安全を取り上げます。 多くの「歩行者のITS」は、交差点や横断歩道などで導入されています。具体的な装置としては、携帯端末や電子タグを利用し、歩行者が横断歩道に接近したときに携帯端末で表示したり、横断歩道の機器からの音声を通じて伝える事例(国内各地)や、照明が点灯することにより、横断歩道や歩行者の存在を運転者に伝える事例(高山市、福井市など)などがあります。こうした横断歩道部での取り組みはアメリカやイギリスでも実施されてお運転手に知らせる仕組みや、電子タグを利用しタグを持った歩行者の接近情報を運転者に伝える仕組み(神奈川県)などの実験が行われています。 また、豊田市内においても、その地点での過去の事故の状況から運転者に注意喚起を行ったり、歩行者横断情報を運転者に車載器を通じて注意喚起を行うシステムの実験が行われました。 センサーや通信技術の向上は、様々な情報を私たちに伝えてくれます。しかしそれは完全なものではありません。あくまでも安全を「支援」するシステムであり、そのことを十分理解しより安全の向上につながるよう努めていきたいものです。研究員リレーコラム妊婦はシートベルトをしなくてもいいってほんと? 日本の道路交通法では、妊婦はシートベルトによって腹部を圧迫し、胎児に悪影響を与える恐れがあるとして着用が免除されています。 しかし、シートベルトを締めていない状態で交通事故に遭ったら、妊婦はダッシュボードやハンドルに叩きつけられ、腹部も強く打って母胎共に危険な状態に陥ることは容易に想像がつきます。 先日、新聞記事で、妊婦とシートベルトに関する記事がありました。 新聞で紹介されていたのは、母体の安全確保のために、シートベルトの着用は望ましく、子宮を圧迫しないためにも、腰ベルトを出来るだけ低い位置に装着し、肩ベルトもお腹の上を通さないようにということでした。 アメリカでは、ベルトを着用してない場合の胎児の死亡率は、着用している場合の4倍だそうです!! ちなみに、この記事のもとになったのは、8ヶ月の妊婦さんが、事故に遭って亡くなられたらしいのですが、なんと胎児は無事だった、ということからでした。生まれながらにして、母を亡くした子供。そうならないためにもシートベルトは正しくつけましょう。図 歩行者の安全を支援するITSの例 道路交通の安全性の向上は、全ての都市にとって非常に大きな政策目標です。研究所では長年にわたって交通安全研究に取り組んできました。今号では交通安全に関わる最新の状況について3点の報告をします。年生4200人とその保護者、同居の65歳以上の高齢者を対象に、小学校別のヒヤリハットマップを作成しました。得られたヒヤリハット地点は約43000箇所にも上り、GIS(地理情報システム)を利用して地図上に表現することで身近な危険箇所やその内容を把握することができました。 これらのデータと実際に交通事故が発生した地点との比較も行いました。小学生の指摘した地点は、「歩いていて危険な場所」「自転車に乗っていて危険な場所」の2通りですが、市中心部の挙母小学校で比較したと警察庁、UTMS協会、豊田市HP、ITSJapan HPを参考に作成ドライブレコーダのデータから何が分かるか 研究員 三村 泰広 ころ、危険と感じる地点とこどもが事故に遭っている地点が必ずしも一致していませんでした。この結果により、普段危険と思っているところは、通行時に十分気をつけているのであまり危険でなく、思わぬところで事故が起きている可能性を明らかにすることができました。 この小学校区では、ヒヤリハットと事故地点が一致する場所がありました(図)。この場所は、朝夕の通過交通が多く、以前より速度を落とすための対策を進めてきた場所であり、今回このような結果や地域の要望を受けて、ハンプを設置する社会実験を1ヶ月間実施し、効果を確認できました。この地区では、今後恒久的な通過交通対策を実施するための仕組み作りを展開する必要があります。 このように、研究所では、ヒヤリハットマップの作成を契機として「地域で考える交通安全対策」について協力していきたいと考えています。図 ヒヤリハットと事故地点が一致した道路の例(挙母小学校区内)り、歩行者を感知すると信号の現示を変化させ、横断時間を延長する仕組みなどが導入されています。 また、視認性の悪い箇所(カーブやトンネルなど)においては、センサーにより歩行者を感知し電子掲示板を用いて歩行者の存在情報を表示する事例(滋賀県)や、電子タグを使用し特定の区間を通過する自転車(歩行者)の存在状況を電子掲示板に示す事例(高知県)などがあります。 一方で車載器を使用するものとしては、スクールゾーンに入ったことを研究アシスタント 中村 舞ICタグ3030学校があります。スピードに注意しましょうスピード注意歩行者センサー光ビーコン横断歩行者に注意歩行者横断情報提供システムスクールゾーンにおける速度超過抑制子ども存在情報提供(歩行者ICタグ仕様)子どもがいます。注意して下さい。通信インフラから学校
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